劇作家の少女

 その少女はキラキラな白銀の髪をしていて、痩せっぽっちで目の周りが窪んでいて、すこしほこりっぽく色褪せたパジャマを着ています。そんな彼女の名前は『ぴっぴ』。


 ぴっぴの部屋は黒い螺旋階段を上ったところにあって、濃い紫色の床と黒っぽい丸テーブルと褪せた赤色のベルベットの椅子と、とても古い本棚がありました。テーブルの上には赤い表紙の分厚い本が積まれています。


 部屋の窓辺でマリがひとり、プリンを眺めながらぴっぴを待っていると妖精のような小さな男が入ってきて、本棚にあるぴっぴのアルバムを勝手に取り出して見ようとしました。マリは咄嗟にその男の腕を掴んで「勝手に見るなんて、失礼よ」と戒めると、小さな男は不服そうな顔をして帰りました。


 それからしばらくして部屋に戻ったぴっぴはこわい顔で

「あの男にアルバムを見せた?」とマリに訊ねました。

「見せていないよ」と答えると、ぴっぴは「ふーん」と返して、マリを見るのをやめました。


 ぴっぴは劇作家で、演劇の脚本を書いています。テーブルの上に積まれていた赤色の表紙の本はぴっぴの好きなゲーテの『ファウスト』やワイルドの『サロメ』でした。マリとぴっぴは床にそれらを広げて暗い部屋の中で脚本作りをしてあそびました。


 マリと一緒にいる間、ぴっぴは終始、笑う事がありませんでした。彼女はいつでも口が「ヘ」の字で、眉間に皺を寄せています。マリはぴっぴが好きだったので、彼女が笑ってくれない事がいつも悲しくて、不安でした。

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