満水百貨店

 そこは水で満たされた世界でした。外も建物の中も水でいっぱいです。デパートの中も水で満たされていて、みんなまるで水槽の中の魚のように水中を漂いながらお買い物をしていました。そのデパートには所々に死体も漂っています。しかし死体を気にするお客さんは誰もいません。それがごく当たり前にように死体を避けながら泳いでいました。


 「水族館の水槽の中みたいね。ときどき、死んだ魚が入ったままになっている。」マリはそんなことを思いながら、誰かに頼まれたというわけでもなく、死体をエレベーターにせっせと運んでいます。水中なので死体の重さをほとんど感じません。


 エレベーターの半分ほどが死体で埋まると、マリは内側からエレベーターの『閉』ボタンを押しました。マリは死体と水でいっぱいの空間に閉じこもります。『閉』のボタンの横には、このエレベーターが永遠に開かなくなるボタンもありました。マリはあまり考えず、ほとんど躊躇わずにそのボタンを押しました。そしてもう二度と開かなくなった扉に身を寄せると、コポコポ、と大きく穏やかな呼吸をしました。

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