第31話
「彼が此度のシステムを超える者?」
ウルはそう呟くと、俺を見据え、そして首を振る。
「違う。だがどう説明する。しかし」
隙だらけではある。だけど攻撃が通らないのであればどうしようもない。
GM側がチート使って襲って来るとか何世代前のシナリオだよ。
このゲームのシナリオ作った奴古いんじゃないの。
「動けるようになりましたよ~! マスター、今行きます」
サラが俺の胸元に沈み込むのを見届けたウルは、そこで初めてスカした面構えを乱す。
「下位存在であるあなたが何故……」
含みだらけのウルの言葉には惑わされるだけだ。
無視だ無視。
俺は動くサラに合わせて、双剣を構えた。
サラが双剣を交差させる。俺はそう動く。
双剣を胸元に寄せ、逆手に持ち返れば透明の光の粒が集う。
まるで短距離ワープだ。瞬きをする間もなく俺はウルに肉迫し、身体をコマのように回す。かなり強い抵抗はスキルを用いていても一撃一撃が奴の身体に触れる度に弾かれているからだろう。
それでも諦めたりはしない。もちろん途中で止まらないからというのもある。
一撃、二撃、三撃と、奴の防御の隙間を縫うように双剣が走った。
触れれば弾かれ、傷を与えられず。それでも俺は斬り続ける。
「ぜい!」
気合一閃、奴は俺の隙をついて剣を振るった。
その衝撃で、俺はたたらを踏むことになる。
たった一撃だ。それでも俺の防具が音を立てて光の粒へと変化した。
神衣憑依状態の俺の剣が、見切られた。
舌打ちしながらも相手はチート野郎だ。それくらいの芸当はしてきてもおかしくはない。
「死になさい、凡百!」
奴が弓を引くようにして、手に持つ剣を引き絞る。
「はっ、誰が凡百だ!」
「そうそう、お兄さんは結構やり手だと思うよ~」
シズクのその声に驚いたのは俺だけじゃなかった。
「な、早過ぎ――」
ウルの驚愕の声を余所に、
シズクが小さな筒をウルに押し当てると、奴の姿が掻き消えた。
それは神衣憑依を彷彿させる速度だ。
即座に俺は奴の姿を探す。
上だ。顔を上向かせ、奴の姿を捉えた刹那。
光の矢が銃弾のように奴へと降り注ぐ。それはまるで他のゲームで見た銃の斉射のようだ。
「ごふっ」
数多の矢をその身に受けた奴が吐血を始める。
初めの頃の余裕な態度はもうそこにはなかった。
「なんか、あれだね。気合いだね。マサトじゃないけどなんとかなるもんだ」
「そうだね」
弓を構えたままのカエデが微笑を浮かべシズクに同意する。
「かはっ、そうか。その武具は」
「キリヤが一から作ったやつだよ」
誇らし気にシズクが胸を張った。
「ふふ、此度のシステムを超える者は、特に優秀なようですね。この分だとアルもイルも失敗しているかもしれません」
「お約束だから一応訊いてあげるけど、システムを超える者ってな~に?」
悪戯をする子供のような顔を浮かべ、訊ねるが答えは期待していないのだろう。トドメを刺さんとする殺気が見て取れる。
「所詮、これまでも敗北をしてきた第二世代ということか」
ウルが自身すら憐れむように顔を歪めた。
自分は無力である。そういった悔恨の念に、俺の心の奥で何かが揺れた。
「あっけないね、これでゲームクリアか」
シズクがウルに筒状の何かを押し当てる。
「一足先に電子の海で待っている」
奴は遺言を残し、爆散した。
エンドロールは流れない。
ログアウトさせられることもなく転移させられることもなかった。
「アルだかイルだかがまだ残っている?」
俺の呟きに、精霊憑依を解いたサラが首を横に振る。
「ウルが死滅する以前にアルはキリヤさん、チルルの手によって滅びています。イルに関してはマサトさん、それに……椿? さんが倒しました」
椿……つばき? ないな。そうは思っても他にそんな大活躍する同名のプレイヤーがいるとは思えない。
「それ、もしかしてVWのトッププレイヤーじゃない?」
そんなのがどうしてHWのトッププレイヤーと一緒にいるんだろう。
「何度か地上にいた頃に助けてもらったんだけど、そんな凄い子だったんだ?」
勇者の下には勇者が集まるらしい。
お金のある人のところにはお金持ちが集まるのと同じ理屈だろうか。
マジ渡る世間は格差社会。個人スキルだけじゃなくて仲間にも恵まれているとかどうなってんの。
「ともかくラスボス倒したのに何も起こらないってのはおかしいな」
「そうだね。これからどうすればいいんだろう」
GWは陣取りゲーム。それを思い出したが、あいつらが登場したということはそういった前提は形をなさないと思う。
「う~んキリヤたちが何をしてあいつら出てきたのかもわからないし、とりあえず合流しようか。実はさっきからチャット欄がうるさいし」
「シズクちゃん、二人は心配して送って来てくれてるんだよう」
二人はチャットを送り、合流地点を定めたようだ。
「それじゃ合流しようか。行こう」
有無を言わさぬノリだ。
しかしここまで来て断る理由もないだろう。
何もしてないし出来てないし勇者共に囲まれるのは気まずいし、そもそもチルルに会うのも怖いし、やり返すつもりもないしそんな色々は思い浮かぶけど。
みんなで足を踏み出した時だった。
サラの姿が薄くなっていく。
「な、なんですかこれ~」
思わず、思わず俺はサラを掴み、俺の胸に叩き込んだ。
「お兄さん!?」
視界に入った俺の指先も先ほどのサラと同様、薄くなっていく。
背筋が寒くなった。
「気にすんな、すぐ追いつく」
「いやいやいや、無理でしょ!」
「勘のいいお前がそう言うな!」
怖くなるだろうが。
転移とも違う感覚に侵され、そして俺の意識は切断された。
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