第28話
シズクとカエデは何ともミスマッチなコンビと言えた。
いや、案外この二人のように正反対に思える二人の方が、仲良く出来るのかも知れない。
女の子事情なんて俺には全くわからないからあくまで推測だけど。
見た目はまあ、どちらも可愛い方だろう。
シズクの方が幼く見えるが、カエデも特にクールビューティなんて柄じゃない。
とりあえず俺の脳内キリヤデータに追記をしておこう。
ロリ、コンと。よし、これでいい。
今度形態変化のお礼に、俺秘蔵のGW内ロリが喜びそうな人物ファイルを見せてやろう。
シズクもカエデもなんら警戒することなく歩き、何かを思い出したかのようにシズクが足を止めると、カエデが弓を具現化する。
先ほどから不思議なことに、二人がそうしてしばらくすると金リザード、2メートル程ある大狼、大イノシシ、骸骨剣士といったバリエーション豊かなモンスターと出くわす。
「索敵スキルみたいなのあるの?」
「ええ、まあ、ありますけど。ただ熟練度1000あってもこんな芸当出来ませんよ?」
サラは体験しながらも、まだ信じられないと言った体だ。
それに、俺たちが驚いているのはそれだけじゃない。
ぐひぃぃ。だの、ぶひぃぃ。だの断末魔を上げては光の粒になっていくモンスター共はどれも強そうだ。そもそも金リザードに至っては経験からかなりの強さを持っているはずだった。
それでもそれらは俺たちに近づくことすら出来ずにいる。
金リザードのように遠距離攻撃を持っているモンスターたちは構えることなく消滅。
「不意打ちすると相手の防御力無視、必ずクリティカルになるんだよ?」
武器の攻撃力が尋常じゃないと目を向けていたら、シズクがそう教えてくれた。
俺の双剣でも可能なことらしい。
キリヤの話、マサトの話、チルルの話。
大崩落以後の二人の話。
聞きたいこと、話したいことはたくさんあるがまだその話は出来ていない。
「ありゃ、目の前に邪魔なのいる」
月明かりの差す洞窟。
俺の知識にある言葉で表現するならそれがしっくりくるだろう。
少しだけ開けた空間に、月明かりの差し込むような光があった。
「ああいった場所がいくつかありますけど、モンスターが入って来ないんです」
カエデが控えめな声で言う。
長髪前髪ぱっつんな彼女にその声は、よく似あう。
お胸は立派だけど。
さておき、どうやらその安全エリア前にいる動く死体のようなモンスターが邪魔らしい。
今のところまだこちらに気付いた様子はない。
「なんか、問題あるの?」
カエデがいつも通り矢を射って終わりじゃないのだろうか。
「射っても死なないんです。身体をバラバラにすれば倒せるんですけど」
なるほど。どうやら弓矢では相性が悪いようだ。
今まではどうしていたのだろうかとシズクに目を向ける。
「私が倒してたよ?」
確かにそれしかないんだけど、でもそれでも疑わしい。
俺の胡乱気な目つきが気に食わなかったのか、彼女が唇を尖らせる。
「うわ、信じてない。じゃあもうお兄さん倒してきてよあいつ」
「え、シズクちゃん。それはちょっと」
大きな瞳を伏せがちにしてカエデが俺を見る。
ちょっとなんだ。俺じゃあ危ないって話だろうか。
「神衣憑依ならいつでも」
俺の視線を受けたサラが、腕まくりをするように動く。
戦えるようになろうと思った。
そのための力も手に入れて、今その想いは実現可能だ。
何よりここまで楽をさせて貰って来た。
中学生から高校生のような子たちの背中に守られてだ。
「大丈夫かな?」
「お兄さんなら大丈夫じゃない?」
サラに問うた言葉に返事をしたのはシズクだった。
ここでわざわざお前に言ったんじゃないんだけどなんて大人げないことは言わない。
「よし、それじゃあ行こうか」
サラが俺の胸元に沈み込み、全体像が浮かぶ。
彼女が駆け出し、俺もそれに続く。
一直線にゾンビへと向かい、双剣を突き出したまま突撃。
背後から突き刺し、ぐるふぅぅ。だのと息を洩らしたゾンビが、そこでようやく顔を俺に向ける。
遅い。神衣憑依の残り時間の間、気分はまるでゲームの双剣使いだ。
少しだけ短めの剣を2本、交互に振るう。
調子に乗って回転までして見せる。
断末魔を上げたゾンビは、光の粒になった。
そこで神衣憑依が解ける。
「お兄さん強いじゃん!」
やけに遠くからシズクが声を上げた。
得意気に鼻を擦った瞬間、カエデの顔が青ざめる。何故かごめんなさいしていた。
「あれ、どうしたんだ――」
ろう。言い終わる前にそれに気づく。
腐臭。夏場のゴミ捨て場。肥溜め。
そんな臭いが鼻につく。
「くっさ、くっさい、何これどういうこと!?」
「マスター! 水場、水場がありますよ!」
安全空間の中、壁際には水場があった。
飛び込もうとしてその自分の移動速度にビビる。
すぐに元の速度に戻ったが後の祭。顔面から壁に追突。
気を失いかけた俺が聞いたのはシズクの爆笑。
そして、
「精霊憑依解けば問題なしでしたね」
裏切り者の声だ
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