第20話
大狩猟祭から三日が過ぎて、俺たちはエリア2にいた。
エリア2と言ったが何ということはない。
眼前に広がる風景は相変わらず小高い丘に、大草原だ。
出てくるモンスターもスライムの他にウサギ、モグラくらい。
「よし、じゃあ始めようか」
野営地帯。モンスターが近付いてこない野宿ポイントのことらしい。
そこで俺は焚火の跡を挟んでサラと向かい合い、座る。
「どうぞ。メモを取る準備はばっちりですか?」
「いや、メモとかないし」
今日はサラプレゼンツ、なぜなにGWのお時間だ。
今名付けただけだけど。
念のため、H因子を持つ者としてヒロイズムに目覚めた訳じゃないとだけ言っておこう。
もう、何も知らないで辛いことが起きるのが嫌だ。
貧乏で飢えたくもないし、友達もなくしたくないし、可愛い子に死なれたくもない。
「俺は何が出来る?」
「漠然とし過ぎですよ~」
「うん。だから息が出来るとか走ることが出来るとかそんなもんはいいんだ」
「う~ん、私からすればマスターが出来ることというのは全部そんなもん感覚で出来ることですからね~」
思いもよらないところで、データから生まれたことの弊害があったもんだ。
「わかった。じゃあ俺は出来ないけどサラが出来ることを教えてくれ」
これは、俺としてはかなりいい質問だと思う。
実際、サラも感心するような目をしているように見える。
だといいな。と付け加えておく。
「まず世界の声を聴くことが出来ますね」
ヘルプやシステムアナウンス的な物、
それからおそらくあると思われる他のプレイヤーが記した掲示板に近い内容の物、
それが俺の予想する世界の声だ。
おそらく間違ってはいない。
根拠はサラの知識の偏りだ。
ヘルプにしては詳しすぎる。だけど時に曖昧な自信。
ヘルプは無機質な情報であり、過不足はあるかも知れないが事実のみ。
プレイヤーがやり取りする情報は生きた情報。
誤りがあれば訂正されるし、仮定もありうる。
そんな感じの印象でいいだろう。
サラの言葉にはそれぞれの特徴が状況に応じて感じられる。
つまり、サラは学習するヘルプみたいなものだ。
持ってる情報アドバンテージが半端ない。
俺以外の人間が持ってたらチート乙! って言ってた。
「あとは精霊憑依ですね」
それな。
俺が一番気になるところもそれだ。
というか一番チート部分でもある。
いや、情報アドバンテージも相当ヤバいけど。
俺が一番バカなのはサラの言葉を冗談に受取っていたことだ。
サラは確かにスペシャルだったのだ。
「う~ん、後はないんじゃないですかね?」
言葉通りに受け取っても大丈夫か。
サラは俺が知らない俺の出来ることを知っている可能性もある。
ないか。
俺は別に天才でも勇者でも選ばれた者でもない。
自己評価が過剰に高いのは危険だ。
低い分には問題ないだろう、油断や慢心がないという長所だ。
「わかった。それでさ、その精霊憑依何だけどどこら辺がスペシャルなの?」
「あの超常状態になれるのは私だけですね」
やっぱりそうか。
もしも全精霊が使えるのなら、助けを呼んでる時間が無駄だ。
あの精霊憑依をして全力で逃げればいい。
大狩猟祭で助けを叫んだチームがいたことは記憶に新しい。
「あれも精霊憑依なのにサラしか使えないんだ」
「便宜上精霊憑依って言っているだけですよ? マスターが第一発見者なので命名権ありますけど、マスターあれに名前つけてないじゃないですか」
初耳過ぎた。
「え、何それ?」
「この世界では第一発見者が命名権を入手するんですよ。カレー味のじゃがいもの名前知ってます?」
いや、知らない。
てかそんなもんあるんだ。
「カレじゃがですよ。第一発見者の異界人が付けた名前です」
どんな趣味してんだよ。
何? 彼ですみたいな? ジャガイモに恋しちゃってんの?
「店で買う時その名前言わないといけないんですよ? ちなみに大人気商品で子供からマッチョまで商品名口にしてますよ」
マッチョが苦渋の面下げて、頬を羞恥に染め……やめとこ。
「そっか、じゃあ、なんかつけよう」
あれ、なんかわくわくする。
いや、真面目な話をしているつもりなんだけど。
この昂揚感は止まらない。
「ユニゾン。ってどうかな?」
「あれですか、似てはいますね。自律型という共通点もありますし。わたしとしては神衣憑依みたいな…………あれ?」
神様名乗りたいとか中々罰当たりな奴め。
まあ、確かに中二心を擽るいいチョイスだ。
さすが元俺。
「よし、じゃあ神衣憑依でいこう! それでどうすればいいの?」
「私がやっときますよ」
何故目を逸らす?
じーっと見ていると、サラの羽が居心地悪そうに揺れた。
「もう済みましたよ!」
サムズアップしながらいい笑顔。
まあ、いいけどさ。
「おっかしいなぁ?」
独り言のつもりだったのだろう。
だが残念。
聞こえてるんだよなあ。
まあ、いいか。
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