第18話

 サラと始まりの街に戻ってから一カ月が過ぎようとしていた。


「やばい、何故だ」

 巾着袋をひっくり返してふりふり。

 埃一つ落ちてこない。


 スライムを狩り続けて銅貨を稼いではご飯を食べて、

 それが終わったら寝る。

 順調な毎日だった。


 きちんと運動してご飯を食べて、規則正しく生活。

 おしゃべり相手はサラ。

 完璧じゃないか。


「防具を壊したからじゃないですかね~」

 初めのうちは喧々と喧しかったサラは見る影もありません。

 ふよふよ部屋を漂い食っちゃ寝を繰り返していた。


 やっぱこの子俺のデータから生まれただけあって素質あったよ。

 ……話を戻そう。


「確かに防具を買い直したのは大きな痛手だった。

 でもなあ、それ以上に食費だよ食費!」

「何故だとか言いながらわかってるじゃないですか、マスター食べすぎですよ」

「違うよ! サラでしょ、何でそのサイズで俺と同じ量食うんだよ」

「私の所為だって言うんですか!?」


 あれ? もしかして違うの? とか考えちゃいそうな勢いだ。

 だが俺は甘やかさない!


「稼ぎ手が一人しかいないのに二人分賄うとか無理でしょ!」

「誰のおかげで精霊憑依無しで探査系スキル使えるようになったと思ってるんですか!」

 ちゃんとテイクはしてます!

 まあ、そういうことが言いたいんだろう。


「お金にならないのー」

 便利だけども。便利だけれども。


「マスターがこんな実入りの悪い街を拠点にしてるからじゃないですか~」

「戦ウノ、オレ。ナンカアッタラ死ヌノ、オレ」

「突っ込みませんよ~、マスターが求めてる突っ込みは入れませんよ~」

 カタコト! って言って欲しかったんだけどなあ。


 まあサラとの関係は概ねこんな感じだ。


「冗談はさておきどうすっかなー」

「ですね~。……そろそろ気が済みませんか?」

 まあ、久しぶりな流れだわ。


「ここでだらだら過ごしていても待っているのは、魔物の侵攻の果ての全滅エンドですよ?」

 サラが言うにはこのゲームは、陣取りゲームなのだそうだ。

 100のエリアに分割された世界で、プレイヤーは100番目のエリアを解放することが最終目標となる。

 100番目のエリアを解放したチームには何かが起こる。

 それが世界の秘密らしい。


「で、今どうなってるんだっけ?」

「エリア26まで最前線組は退いたらしいですよ」

 勇者だらしないなあ。

 始まりはエリア50までが人間領だったらしい。

 まあつまり人間は生活圏をエリア24個分ほど削られことになる。

 それが意味することはまだわからないし、1エリアがどれ程の広さかも知らない。


「HWやVWのトップランカーたちはどうしてるの?」

 俗に統一戦と呼ばれる対戦があったことは俺も知っている。

 正義と悪どっちが強いみたいな触れ込みで行われた。

 それぞれのトップランカー同士の戦いは、HWの圧勝に終わった。

 まあ、VWの上位三人が出てなかったのが痛かったんだろうけど。


「HW1位のマサトってやつがバカみたいに強かったよね?」

「マサトさんはエリア76で単身戦っているみたいですよ。幼馴染を探しているそうです」

 ふ~ん。ってことは、最前線組は最強のヒーローを欠いたまま戦ってるのか。

 つかエリア76ってえらい奥行ってるな。大丈夫なのか。


「ちなみに2~5、7~9位だった方々は亡くなっています。VWは5~9位までがHWの方々に殺されたそうです。何か戦争があったとか」

「プレイヤー同士でそんなことやってるからそんなに後退したんじゃない?」

「かもしれませんね~」

 サラはものっそいどうでも良さそうだ。


「なおさら行く気なくなったけど」

「でもこのままだと餓死――ああ、マスターは経験済みでしたよね~」

 騙そうとして失敗する辺りも俺っぽい。

 まあ、この世界、餓死がないこと知ってる俺が異端かしら。


「でもとりあえず今日はこの辺りのエリアから出た方がいいですよ」

「何で?」

「月に一度の大狩猟祭ですよ。始まりの街に魔物が湧きます」

 一カ月前、救世主に助けて貰ったあの日、あれは大狩猟祭とやらの日だったのか。

 となるとやばいな、リザードマンが湧く。あれは強そうだ。


「それじゃあ出るか」

「ああ、ただ素材屋のお姉さんにお別れ言って来た方がいいんじゃないですか?」

「何で?」

「あの子多分死にますよ」

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