第17話

「マスターマスター、これからどこ行きますか? 美味しい物食べに行きませんか?」

 サラはきょろきょろ辺りを見回して、

 屋根より高く飛んではまたぐるりと辺りを見下ろして、

 とにかく楽しそうだ。


「素材屋が先」

 これだけのディスクを巾着に入れられてるから、容量はないのかもしれないけど一応。

 と思ったところで気付いた。


「サラ、この巾着って容量とかあんの?」

「ストレージですか? 基本的には無限ですよ。ただディスク化出来ない物は入れられません」

 すごいよ世界の声。

 全然チュートリアルとかなかったこの世界でこの存在はありがたい。


「じゃあさ、この素材全部でいくらになると思う?」

「知りませんよ」

 何でもは知らないらしい。

 何か不満そうな顔してる。



「いらっしゃいませ、あ、刹那さん」

 ぱっと華やぐ素材屋さんに俺も和むよ。


「ぷ、うぷぷ」

 なんか文句あるんですかねえ?


「マスター、刹那って名乗ってるんですか?」

「ここでの俺はその名前なの」

「世界的には認めてないみたいですよ? ぷぷぷ」

 めっちゃ小ばかにしたような顔しやがって。


「どういうこと?」

「素材、刹那、ディスク、サラディムフィード、サラ。何か感じませんか?」

「いや、全く」

 そのため息止めろ。

 バイトでわかった? →もう一度お願いします→はあ。

 の流れを思い出すから。


「まあ、私はスペシャルなので問題ありませんけどね」


「あの、ところでそちらは?」

 あ、ごめんねオアシスさん。


「俺の精霊のサラディムフィードだよ」

「サラ、ディ、ム、フィード?」

 言い難いよね。わかるわ。


 オアシスさん。俺の心のオアシスだからオアシスさん。

 まあとりあえずオアシスさんは何度かサラの名前を復唱している。

 覚えようとしれくれているのかしら、いい子だなあ。


「そうだ、ごめん。これの買取お願い」

「あ、はい承ります」

 オアシスさんの瞳が緑色に光る。

「あれは探査系スキル使用の光です」

 おお、生き字引さん。


「全部で銅貨118枚での買取になりますが、如何なさいますか?」

 思ったよりも安い。

 銀貨1枚にも足りないのはさすがに想定外だなあ。

 いや、ていうか赤字じゃん!


「え、ごめん。そんなに安いの?」

「す、すみません。色は付けたんですけど……そうですね、前回の事もあります――」

「――ごめん、いいんだ。それより色つけてくれたんだ、ありがとう」

 なるべくかっこつけて、にこっ!


「マスター、そのでへって顔、私が恥ずかしいので止めて下さい」

 え、俺そんな顔?


「あ、私はそんなに気にしませんので?」

 何で顔逸らすん?



「ほれで、これからどうふるんです?」

 もぐもぐ自分の身体よりも大きい串焼きを食べるサラ。

 あれはどこに消えてるんだ?


「農耕覚えられないなら稼ぐしかないよなあ」

「ふんふん」

「まあこの辺り拠点にしてスライム狩りまくるかあ」

 ぽと。と串だけになった串焼きを落とした。

 串焼きじゃなくてもう串だな。焼けてるけど。


「マスター、世界の秘密を暴きに行くんじゃなかったんですか~!」

 一回もそんな話はしてないけどな!


「もしかしてマスターってばヒキニートってやつですか?」

 くそう、データから生まれたからってやな言葉知ってやがる!

「稼いでるからニートじゃないしモンスター倒しに外出てるからヒキコモリでもない!」


「……」

 マゾ歓喜な目だわ。

 残念、俺はマゾじゃない。


「いいですかマスター、選ばれた者はそれに見合うだけの働きをしなければいけないのです」

 そうそう。だから勇者は魔王を倒さなくちゃいけないのだよ。

「マスターはスペシャルな私という相方を手に入れた! これはもう選ばれたと言っても過言ではないのです!」

 過言だよ。そもそも俺には特別な力とかないし。

 勇者は最初から勇者なんだ。

 俺みたいに絶望的な状況に何て陥らないし、

 救世主に助けられなくても生きていける。

 可愛い女の子の仲間を侍らせ、伝説の武器を手に入れる。


 くそ、マジで死ねばいいのに。


「という訳で世界の秘密を見つけに行きましょう!」

「嫌だ」

「マスターぁ~」

 行かないったら、行かないんだからね!

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