第16話
「お~、あれが街ってやつですね」
サラディムフィードと名乗った精霊はよくしゃべる。
長いのでサラでいいだの、地平線が見えるだのととにかくよくしゃべった。
「マスターは案外無口さんですよね~、私のマスターとは思えませんよ~」
俺の方こそサラが俺の記憶から生まれたとは思えないよ。
言っていいかなー、言ったら怒るだろうなー、俺なら怒る。
だから言わない。俺、賢い。
「精霊憑依だっけ? 試してみたいんだけど、どうかな?」
「いいですけどマスターはまだ熟練度低いんでスキル使えませんよ?」
おっと、また新しい単語だ。
俺の記憶というか知識、正確にはデータとやらから生まれたサラがどうしてこんなに物を知っているのか聞くと、
『世界の声ですよ』
と答えた。まあ、多分システム的な何かなんだろう。
「なにそれ?」
「いいですか~」
得意げにふんふん鼻息を飛ばしながらサラが言う。
俺のデータから生まれたらしいから俺もアニメの話とか、こんなふうに得意げな顔して話してるのかしら……。
「スキルを使うには熟練度が必要です。熟練度は精霊憑依状態でスキルに応じた特定の行為を行うことで上がります。使いたいスキルの熟練度が一定以上まで貯まれば使えるようになるのです」
ふんふん。
「え、じゃあ試すどころかずっと精霊憑依してたいんだけど」
当たり前の思考ですよね?
「ずっとは嫌ですよ、疲れますもん」
疲れるらしい。
俺がかなー、それともサラかなー。
「そんな怒らないで下さいよ、ホントに疲れるんですから」
この女、らしいを抜いてしゃべってやがる!
「私はスペシャルなので、こうしてぼっちなマスターとも楽しくお話出来るし、見た目もマスター好みの可愛い感じになってるんですから一緒にいた方が楽しいですよ~、連れてるだけで羨ましがられますよ~」
キャッチセールスか!
「まあいいけどさあ、スキルには農耕とかあるみたいじゃん? 覚えておきたいんだけど」
「え、マスターは農耕覚えられませんよ?」
「え、なんで?」
「いや、覚醒H因子持ってるじゃないですか」
え、ダメなの?
「覚醒H因子持ちは生産系のスキルは習得出来ませんよ。生産系のスキルを習得出来るのはG因子持ちだけですけどマスターはもうH因子を選んでるじゃないですか」
サラ、便利な子。もっと早く俺のとこ来てくれよ。
どっと疲れたような気がしていると、サラが気遣ってくれるらしく咳払いを一つ。
「仕方がありません、すっごく疲れるので嫌ですがマスターのためです。私のスペシャルな精霊憑依をご覧にいれましょう」
この子はいちいち自画自賛しないと何も出来ないのだろうか。
まあともかく初の精霊憑依だ、少しわくわくする。
「どうすればいい?」
「とりあえず街に向かって猛ダッシュして下さい」
「おっけ、わかった」
全然事情はわからなかったがとりあえず従うぜ!
俺は全力で走った。
草の上で走り難かったけどなんのその、
街まで走ったら一時間くらいでつくんじゃないかな!
体力持たないけど。
すこしだけ先行するようにサラが飛ぶ。
この子早いわ。などと思っているとサラが俺の胸元に吸い込まれた。
比喩とかじゃなく本当に胸元に沈み込む。
視界が一瞬だけ歪んだ。
「いきますよ、マスター」
頭に直接響くような声と、何故か感じるサラの全体像。
「私の動きを真似して下さい」
真似するも何もサラも走っているだけだ。
あ、歩調?
サラが右手を振れば俺も右手。
サラの左脚が振れれば俺も振る。
向かい風が強くなった。
そう思ったが違う。
これは、俺がものすごく速く走ってるんだ。
モンスターが触れた瞬間に光の粒になる。
少し振り返ると走った後には草が抜け、舞っている。
なんか、楽しい。
「疲れました……」
体感2秒、サラの声が聞こえた。
次の瞬間、俺の足は急激に進行速度に遅れ、
まあ、当然。
顔面からスライディングをした。
「ま、マスターぁぁ」
大丈夫ですかみたいな声出してるけど。
お前の所為ですから……。
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