第15話

「マスター起きて下さい」

 聴き慣れない声に揺り動かされて俺は目を開けた。


 何だ夢か。

 いい匂いがするちっさい女の子の知り合いなんている訳ないし。

 ましてやマスターなどと……知らないぞ? いたずらされても。


「マスターってば」

 ねーねー、おかーさーん。としている子供のような声だ。

 おかしい。夢ではないかもしれない。

 リアルすぎる。でもありえない。


 五分くらい幻聴が続いただろうか、ようやく止んだ。

 まずいな、どんな状態異常だろう。


 目は閉じているのに考え込んでいる為か、一向に二度寝ははかどらない。

「お、重いぃぃ」

 ヤバい。幻聴復活。

 よっこらしょとか、うんとこどっこいしょとか、そんな感じの頑張っている感じの幻聴が聴こえる。

 ひょっとしたら、万に一つ、if的な話で夢じゃない?


 薄目で確認。

 エロ目とも言える。モザイクが消えるだか消えないだかの話は近頃聞かないなあ。最近はモザイク無しで見ちゃうませたお子様が増えているのだろうか。


 あ、夢じゃない。

 というか夢であって欲しい。

 俺がそう思った場合現実であるのが普通だ。

 だから、夢じゃない。


 羽の生えた小さな女の子の、ばんざいしたさらに小さな手の上に、大玉転がしで使うような巨大な水の球が浮かんでいる。

 この世界、魔法攻撃とかあったんだ。

「起きて下さいマスター!」

 ていやっと女の子が水玉を放り投げ、それはそのまま俺の全身を濡らした。

 今どきコントでも見ねえよなあ。


 全身濡れ鼠になった。トランクスまでぐちょぐちょだ。

 まあ、しばらくしたら乾くからいいけどさ。


 そんな訳で俺は狸寝入りする訳にもいかずに起きた。

「おはようございますマスター」

 バックに花が咲くような笑顔だった。

 この子視点では水をぶっかけて起こしたマスターに対して見せている笑顔のはず。

 そう考えると恐ろしい子!


「寝ぼけてます?」

 きっとな。さっきからテンションがおかしいのはその所為だ。

 きっとな!


「ああ、うん、ちょっとね。でさ、君誰?」

「何言っているんですか、一カ月以上同じ釜の飯を食べておいて。いや~でも誤算でしたね、まさか手持ちの食糧半分を分けて貰うのに一カ月以上掛かるなんて。あ、でも誤算でもないかもです。ついさっき世界の声を聞くまで知りませんでしたからね~。でもでもそのおかげでマスター超レアですよ超レア。喜んでいいんですよ、あたしという超レア精霊のマスターになれたんですから――」


 とりあえず彼女? のマシンガントークはそこから数十分続いた。

 内容的にはどうやら彼女は精霊で、俺はそのマスターになれたらしい。

 そして彼女曰く彼女は普通の精霊とは異なる精霊らしい。具体的には精霊は光の球のような見た目のまま契約をするらしいのだが俺が特殊なコード、つまり特殊なクエスト条件を満たしてそうなったらしい。

 長いよ。三、四行でまとめられたじゃねえか。


「という訳でマスター、一緒に世界の秘密を探りに行きましょ~」

 お~! とテンション上昇、握り拳を掲げているところ悪いんですけど、意味わからん。


「なに? 世界の秘密って」

「知りませんよ。だから探しに行くんじゃないですか。モーツァルトも旅をしろって言ってましたよ!」

「何でモーツァルトとか知ってるんだよ……」

「あたしがマスターのデータから作られたからですよ?」

 きょとん、と首を傾げた彼女が説明するには彼女の姿形すら俺の記憶から形成されたらしい。


 とりあえず色々と頭の痛くなる同行人が出来たことだけは確実だった。

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