第14話
そろそろ一週間だ。
携帯食料も尽きたしもう限界だ。
もう俺お家に帰る!
いやでも後一日経てば何かあるかも。
そんな繰り返しをして早一週間。
食糧が尽きたし仕方がない!
そんな訳で俺は精霊のいる森と街道の境界線に立つ。
振り返ればここ一週間寝食を共にした精霊が、数メートル森に入ったところで光っている。
付いてくる気配がない。
森の中に居る時はモンスターを狩りに出かけている時も水浴びをしている時も、
お早うからお休みまで付いてくる癖に、外に出ようとすると付いてこない。
ひょっとしたらまた森で俺を待っているかもしれないけど、
残念ながら俺の方が精霊の区別がつかない。
「じゃあ、達者でな」
傷ついた野生動物を保護して、野生に返す。
そんなイメージで俺は恰好つけてみた。
精霊が激しく明滅を繰り返した。
寂しがっているような気がする。
「でももうお前の好きな携帯食料もないんだって」
精霊が八の字を描くよう飛んでいる。
ついて来いってことか?
仕方がない。何かメッセージがあるのなら聞いておかないと後悔しそうだしな。
てくてくてくてく。
何か、遠いぞ。これこのまま食われるんじゃないよな。
ちょっと心配になるほどの距離を歩いた先では、豊かな自然が育まれていた。
元々精霊がいる森だ。
イメージの通り空気が美味い! って感じの森だけど、さらに凄かった。
そのまま食べられそうな木の実がたくさんある。
林檎みたいなのや木苺みたいなのや、もうてんで種類はバラバラだけど、
すごい。そう思うだけの物があった。
「食べてもいいのかな?」
返事をするように精霊が光る。
美味かった。
林檎も木苺も甘くて、瑞々しい。
大きさも飽きが来ないほどよい大きさだ。
隣で精霊も食べているようで、
林檎がゆっくりと形を変えて行っていた。
「まあ、もう少しいてもいいかな」
精霊が嬉しそうに点滅した。
果実の楽園はちょっと俺に似合わないメルヘンチックな光景だったので、
俺はやはり池のほうで寝起きしていた。
モンスターも来ないし。
そんなこんなでまさかの一カ月が過ぎようとしていた。
ディスクはクソ貯まったし果物は食べ飽きた。
話しかけても精霊はイエスノーしか反応出来ないし
「そ、そろそろ帰ろうかなあ」
精霊が八の字を描いて、点滅して、俺の傍を飛び回る。
人生でここまで引き留められた事があっただろうか。
半年続いたバイトで先輩バイトが何やらねちっこく言ってきた。
仕事は俺の方が出来たから店長に相談した。
追い出されたのは俺の方だった。
おおう、久しぶりのダウナーだぜ。
惜しむらくは精霊は可愛い女の子でもないし、
マスター! だのと言って慕ってくれる訳でもないことだ。
未だにスキルのスの字も見ないし。
「後、一日だけな」
ポケットに手を突っ込んだ拍子に手に触れるもの。
食べかけの携帯食料だった。
いつのだこれ。
まあ、何とか食べられそうだし食べるか。
正直果物以外の何かが食べたかった。
半分に割って一つ差出し。
「くうか?」
精霊が携帯食料を小さくしていった。
最後の夜はこうして過ぎて行った。
「マスター起きて下さい」
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