第13話
日が落ちてきた。
未だに精霊の影も形もない。
本当にいるの?
口の中の水分をぎゅんぎゅん奪っていくほにゃららメイトとよく似た携帯食料を齧る。
もっさもさだ。
乾いた喉は湖の温水で潤す。
「なんか、もう精霊とかいっかあ」
始まりの街を拠点にして、適当に稼ぐ。
その日食べて生きて行ければそれはそれで幸せの形だと思う。
きっといつか誰かがクリアしてこの夢は終わる。ならそれまで。
ダウナーな気分だ。
だけどそんな気分になった時に限って現れた。
湖を挟んで向こう側、何かが光る。
昔見た、蛍のようだ。
木陰に光の筋が浮かんでは消える。
時折点滅。
俺は腰を上げると尻に着いた土を払い、ゆっくりと湖を迂回する。
視線は精霊から外さない。ここで逃したら次いつ出会えるかわからない。
精霊が何をしているのかまではわからないが、逃げていく気配はなかった。
後数メートル。
そこで初めて精霊が大きく移動を始めた。
だがもう遅い。
「うおっし、捕まえたあ!」
光の球を包み込むようにして、手中に収めた。
この後どうしよう。急激な不安と共に、手が熱くなった。
比喩じゃなく熱かった。
「うおっ、あちぃ!」
離してしまった精霊が一目散に逃げる。
当然追うに決まっていた。
精霊は宙を浮き、地形を無視して進む。
だが俺も負けていない。
防具の性能に頼って繁みを掻き分け進み、伸びた枝葉はショートソードを突きだし取り除く。
精霊との鬼ごっこは5分で終わった。
巣なのかどうか知らないが大量の精霊がそこにはいた。
選り取り見取りだ。
もっとも全部同じ色で似た光り方をするので区別はつかないけれども。
手元にいた精霊に手を伸ばす。
「あっち」
やはり熱かった。
一度帰って虫かごでも買ってくるか。
踵を返したところでやけに背中が熱くなってきた。
嫌な予感がする。
振り返ればそこに、奴らがいた。
無数の精霊が俺の周りに集まり出していた。
ここでモテモテだぜ。などと思うバカはいまい。
走った。
全力で走った。
昔映像で見たことがある。
スズメバチとミツバチの戦いだ。
戦闘能力に大きく劣るミツバチだが、あいつらの工夫と命知らずの潔さには敬意を表してしる。そんな俺だからピンときた。
やつらは、俺を殺す気だ。
熱殺蜂球みたいなものを作って俺を殺す気だった。
間違いない。断言できる。
来た道を真逆に辿る。
精霊たちはどうしてそんなに怒っていると言いたくなるほど大量に追って来ている。
女王蜂にあたる精霊だったのだろうか。
いや、それならその辺りに居るなよ。
我ながら頭の悪いことを考えていた。
湖が見えた。
これで精霊が潜れるようなら終わりだ。
勢いよく飛び込んだ。
泳げないことはきちんと学習している。
潜りはしたが、深いところにはいかない。
……助かった。
精霊たちは俺を見失ったように旋回すると、姿を消した。
「あーもう、上手くいかねえ」
新調した巾着袋から携帯食料を出した。
もぐもぐ。
ぱっさぱさだよ。
嫌気がさして寝転んだ俺の鼻先に、明滅する光が乗った。
先に動いた方が負ける。
そんなことは全くないけれど。
なんとなく、本当になんとなくだった。
「くうか?」
一匹でいる精霊に、携帯食料を差し出してみた。
ゆっくりと、携帯食料は小さくなっていく。
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