第11話

 二度目の外出は北門からだった。

 理由は簡単で精霊を探すためだ。

 精霊を手に入れると、精霊憑依をすることでロックの掛かっているシステムを解放することが出来る。

 ぶっちゃけスキルを獲得するために必要。


 西門の大草原と大きく異なっている。

 街道はあるし、草原というよりも芝生だし、歩きやすい。

 ついでにモンスターの発見も容易な見通しのよさ。

 今まさに前方100メートル程にいるスライムを発見出来た位だ。


「やってみるか」

 怖くないと言えばうそになる。心臓はどくどくと強く鼓動を打つ。

 そのくせ手足の先まで血が届いていないような気がする。

 整備されても砂利の残る道を踏みしめ、少しずつスライムに近づく。


「はあ!」

 自然と声が出るのは怖いからだろう。

 その声と同時に振り下ろしたショートソードがスライムに沈み込み、

 スライムのぴぎゃーという断末魔と、光の粒を生んだ。


 一撃だ。


「まあ、ナイフでも一撃で倒したこともあるし」

 慢心はしない。

 そんなに多くのモンスターが視界に入る訳ではない。

 まだ始まりの街に近いからだろう。


 精霊がいるという森へと歩く。

 整備された街道を黙々と進み、十分。

 右手に見える森を目指して芝生を突っ切る。


 スライムだ。


 本日二度目。

 全身が震えた。

 今度は、防具の性能を試してみるからだ。


 スライムはのそのそと芝生の上を這いずっている。

 芝は粘性の水で光り、スライムが通った後を示す。

 その水は数秒で蒸発し、芝は元の緑を取り戻した。


 ツンツン。

 ショートソードでスライムを突っつく。


 攻撃とみなしたのか、それとも単純に俺に気付いたのか、

 スライムがこちらへと向き直った。

 顔がある訳ではないのであくまでそんな感じって話だが。


 短い咆哮と共にスライムが迫る!


 慌てて構えた盾に、スライムが正面衝突し、

 得た感触はぷにょん。

 ぷにょんとしか表現のしようがなかった。


 今度は手を後ろで組んで目を閉じ、歯を食いしばる。

 痛くない。全然痛くない。

 ぼんにょんって感じだ。

 勢いもなく、踏ん張る必要性もなかった。


「はは」

 そうか、そうだったのか。

 この世界では、矛よりも盾が強い。


 それがわかれば後はもう怖くない。

 黙ってショートソードを振るう。


 森に近づくにつれ、加速度的にエンカウント率が上昇した。

 俺は森に到達するまでにスライムを10匹は切った。

 これで稼ぎは携帯食料1食分。

 さて、精霊のいるという森に来たわけだ。

 きょろきょろと。

 うん、いない。


 因子覚醒で得た最後の知識。

 精霊は光の球のようで、ふよふよ浮いたり何かに乗ったり水中に沈んだりしているらしい。

 奥の方へ行ったらボスに襲われているとかだろうか。


 ご丁寧に道が出来ているとかいうこともなく、ただある獣道を進む。

 かなり歩き辛い。

 防具に頼ってばきばき繁みを進んでいるが、これが出来ていなかったらかなり疲れただろう。

 山道のない山を登る時というのはこんな感じだろうか。

 まあ、山だと上り坂ばかりだろうからそれより楽か。


 鳥の鳴き声、葉鳴り、水の流れる沢の音。

 インドア派だったけどアウトドアも悪くない。

 まあ、この世界蚊とかいないだろうし。たぶん。


 こつん。

 足元に何かが当たった。

 何だろうと見てみると、角が一本生えたウサギがひっくり返っている。

 どうやらモンスターの攻撃を受けたらしい。


 さくり。


 一撃で一角ウサギはディスクと化した。

「何か、チート主人公っぽい」

 言って少しわくわくした。

 危ない目に遭っている子を颯爽と助けて感謝されたり……。

 おっと、涎が。


 しかし、あれだな。

 脳裏には羽飾りの髪留めを付けた少女の姿。

「感謝してもしたりないよなあ」

 彼女が居なければ因子覚醒も出来なかったし、今も泥水を啜っていただろう。

 今度会った時には五体投地で崇めてもいいかもしれない。


 こんな無体なことを考えながら俺は一角ウサギもお化けキノコもちび猪もばんばんディスクに変えて行った。

 お化けキノコが胞子撒き散らした時にはガクブルしたが、思い出せばなんてことはない。

 鉢巻には状態異常耐性がわずかにあるという話だった。

 さすがに多くの異界人が最初に進むエリアの状態異常なら防げるだろう。


「おお」

 そんなこんなで適当に直進した俺は、湖に出た。

 それっぽい。精霊とか妖精とか居るっぽい雰囲気。

 広い湖の上空には太陽の光を遮る枝葉はなく、

 透き通った水には何かコロポックルが傘にしてそうな葉っぱが浮き、

 澄んだ空気に平和な音。


 きょろきょろ。

 でも精霊見当たらない。

 なんで?


 そんな感じだった。

 とりあえず湖に入ってみた。

 何と意外なことに冷たくない。

 むしろ暖かい。いい塩梅の温泉って感じだった。


 調子に乗ってどんどん進む。

 真ん中ら辺に何かいるかもしれないし。


 それが間違いだった。


「うわ!」

 遠浅だと思っていた湖で、急に深さが変わった。

 足を着けようにもどうにも上手く行かない。


 つい先ほどまで足が着いていたと思った場所に足を送っても一向に抵抗がない。

 溺れる。

 手足をばたつかせるが一向に浮かない。

 理由がわからない。リアルでは河童とまで言われた俺が泳げない。

 装備が重いのかとも思ったがそうではない。

 例え着衣水泳だったとしてもおかしいとしか思えないほど浮かない。


「がばぼぼぼ」

 体の中に暖かい湖の水がどんどん入ってくる。

 息が出来ない。

 またやるのかあれを。

 水の中だ、今回はまずい。

 そうは思っても体は上手く泳いでくれなかった。

 そして、俺はまたまた気絶する

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