第9話

 支度金貰えなかった!

 この事実に気付いたのはギルドから出た直後だった。


「支度金実はもう一度貰えたりなんかしちゃったりしませんかねえ?」

 ないわ。口に出して一度言ってみたが、ないわ。

 カッコ悪すぎる。

 あんなに俺のハートをときめかせてくれたネコミミ少女の前では言えない。


 そうなると、とポケットの中に手を入れる。

 ちゃんと入っていた。

 ストレージ以外でもある程度は収納が可能なようだ。


 取り出したのはリザードマンのディスクだ。

 サンダがどの程度の実力があるのかは知らないが『鬼強い嬢ちゃん』と評していた少女は、ディスクに目もくれずに去った。


 不安だ。

 俺の頭にはスライムの欠片事件が残っている。

 俺好みの素材屋の子にガッカリされたくはないしなあ。


 ぐう。


 腹の音が鳴る。

 鬱々とした気持ちが蘇る。

 そりゃそうだ。

 俺はここ数週間何も食べていないし、尊厳も失っていたと言っていいだろう。

 救世主パワーもさすがに限界が来たようだ。



「……申し訳、ございません……」

 青い帽子を目深に被り、震えている。少し鼻声になっているまである。

 いい子だなあ。

 ですよねー。知ってた知ってた。

「あ、じゃあそれ持って帰るんで」

「……そう、ですよね。他の街でなら銀貨13枚は堅いですもんね……すみません、

 お返しします」

 ? はい? 今何て言った?

「ワンス、アゲイン、ぷりーず」

 潤んだ瞳で小首を傾げ、こちらを見る彼女は俺の好みのドストライク。

 世の中のロリなら100%落ちる。


「私のお店では、どう袖を振っても銀貨10枚までの素材しか買い取れないんです。

 あの、それ以上払ったら、お店、潰れちゃうんです」

 現実的に考えちゃダメだ。

 いや、現実的にも店の金全て費やしてダイヤ買い取った後、

 何カ月も売れなかったら潰れるとかあるのか?

 うん、まあ小難しい理屈はいいや。


「いいや、それで」

 ロリ殺しポーズ。当然ロリがロリを殺すポーズという意味だ。

「銀貨10枚で買い取ってくれる?」

「いいん、ですか?」

「もちろん」

 ロリ灰塵ポーズ。


「た、楽しかった」

 感激した彼女は多くの知識を与えてくれた。

 NPCには位階と呼ばれる等級があり、

 彼女は今回俺が持ち込んだ素材を得た功績で位階が上がる見込みらしい。

 素材屋としての格が上がり、取り扱える金額等も増えるそうだ。


 そして、低い位階のNPCには多くの制約があることも教わった。

 その一例として、記憶が一週間でリセットされてしまう、だ。

 太郎は自発的に俺を忘れたのではなく、

 GWのルールでそうなってしまっただけだったのだ。


 クソみたいなシステムを作った創造主ことGM(ゲームマスター)をぶん殴ってやりたい。

 まあ何にせよ、そんな暗い話も明るい話も小さな体で、身振り手振りを交えて説明して貰って、それから気持ちと言ってお土産まで貰った、

 とても楽しい時間だった。

「金貨何枚だったかなあ……」

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