第8話

 バカバカしい。

 本当にバカバカしい。


 0と1の数字の羅列が額に飛び込んではGWの知識を伝えていく。

 それはわずかな知識ではあったが、知ると知らずでは大違いだ。


 こんな簡単で便利な物があるのに、

 どうして俺はあそこまで苦しい思いをしなければならなかった?


 腕は痛かった。

 中学の時、柔道の授業で調子に乗ったやつに骨を折られた。

 その頃の痛みは耐えられた。

 痛み止めってすげえな。


 胸も痛かった。

 親友だと思っていた太郎はあっさりと俺を忘れた。


 腹は立った。

 いらねえと、どうでもいい奴に言われた。



 目が覚めると暖かいものが頭の下にあった。

 暖かいし、柔らかい。

 ついでに視界にはでかいものがあった。

 でかいし、100%柔らかい。

 まあ、つまりは乳。いや、巨乳さまだろう。

 となると頭の下のものはふとももさま。


「すみません、因子覚醒には一度意識を失う必要があったので」

 巨乳さまもとい、ネコミミ少女の声がした。

 ネコミミ少女かと思ったら実はムキムキの姉御というオチはなかった。

 よかった。

 本当によかった。


「ああ、いえ、因子覚醒して貰って、ありがとうございました」

「それから、これまでの数々の非礼をお詫びします。異界人は、世界の敵となる可能性があるので、ギルドとしてはあまり……」

 悪い奴というのはルールの穴を突く。

 まあ、ゲーマーというのもオーソドックスの穴を突くんだけど。

 いや、完璧にオーソドックスをなぞるという場合もあるけど。

 とにかくまあ、あれだ。


「気にしてないです」

「そうですか、ありがとうございます」

 うなだれていたネコミミが、シャンと立ち、ピクピク動いているのを見ると、

 なんというかすごく和んだ。


「今回は洗礼直後ということで損傷を癒しておきました。かなり貴重なアイテムを使用するので今後はこういったサポートを受けられるとは思わないでください」

 すげえ、そう言えば全く痛くない。

 俺の左腕は久しぶりに真直ぐ垂れているし、動かせば思い通りに動く。

 関節が増えていることもないしよかった!


「それから新しいストレージも用意しました」

 巾着袋のことな。


「それと、これは個人的に洗礼後の皆さんに送っている言葉ですが……

 窮地に陥ろうとも、道を踏み外さなかったあなたの魂は美しいです」


 惜しい。

 あなたに贈る言葉と言われたら惚れていた。

 ギルドを後にしてすぐ、俺は少しだけ泣いた。

 ああ、やばいな、やっぱり惚れたかも。

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