第6話

 救世主のアドバイスに従い翌日まで逃げ回った。

 警鐘の音が耳の奥まで残っていたせいで、必要以上に逃げ回った気がする。

 しかしそのおかげか、ギルドまでの道には何の脅威も残っていなかった。

 むしろ瓦礫が通りの脇に積み重ねられているのを見るに、丁度良かったのかもしれない。


 そして、久しぶりのギルドだ。

 太郎に案内されて訪れたのが随分昔のように思える。

 支度金には助けられたが、果たして今回はどうなるだろうか。


「あの、女の子からギルドへ行くようにアドバイス貰ったんだけど」

「? 女の子と言われましてもこの世界にも異界人にもたくさんいますよ?」

 ですよね。

 名前を聞く暇もなかったもんな。

「何か、羽飾りの髪留めしてて、えーとピンク髪の――」

「おー、自分か。V因子無しのニュービーってのは」


 誰こいつ。

 リザードマンみたいな装備した馴れ馴れしい奴だった。


「俺は寄り辺ってチームのリーダーやってるサンダってもんだ」

 よろしくな。そう言って差し出された手をどうしようか見てしまう。

 男と握手しても嬉しくないし。

 それよりもそっちの魔法使いみたいな恰好したお姉さんとよろしくしたい。


「寄り辺のサブリーダーフラムよ」

 残念ながら綺麗なおてては、下腹部の前で重ねられたままだ。


 仕方がないのでサンダと握手をするとニィっと笑われた。

「ケモミミの姉ちゃん、こいつの因子覚醒頼むわ」

「わかりました。因子覚醒を行います、よろしいですか?」

 今日もネコミミがぴくぴく絶好調だ。

 訳も分からずとりあえず首肯。


 ネコミミ少女の柔らかな手が俺の頭に触れる。

 身長差のせいでつま先立ちになって微妙に震えているのが何とも言えない。


「H因子確認、G因子確認、V因子未確認、腕部損傷、洗礼確認。

H因子もしくはG因子の覚醒が可能です。どちらにしますか?」

 謎用語を並べられてもなあ。


「Hはヒーロー、Gはガーデン。まあ戦闘職と生産職って言った方がいいだろ。ちなみにGなら色んなチームから引っ張りだこだぜ」

「何で?」

「絶対数が少ない」

 まあ、デスゲームで非戦闘職を選ぶのはかなり勇気がいるだろう。

 だけど、俺は果たして戦えるだろうか?


 今も左腕は痛む。

 スライムですら俺の脚を竦ませる。

 リザードマンと対峙した時なんてちびるかと思った。


 だけど、俺の脳裏にはゾンビのようにさ迷うプレイヤーの姿が浮かぶ。

 生産職何かになってあいつらから身を守れるだろうか。

 寄り辺にスカウトされたとしてもこいつらは俺を守り切れるだけ強いだろうか?


 俺の答えは決まった。

「H因子覚醒をお願いするよ」

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