第5話

 一週間が過ぎた。

 腹は減り続けるが、死ねなかった。

 死ななかったじゃなくて、死ねない。


 もう、動きたくない。


 始まりの街の大通りは、眩しすぎた。

 気づけば俺は外周で野垂れ死に寸前だ。

 誰か、助けてくれ。

 何度もそう願っては叶わない。


 ナイフももう売った。

 稼ぐ手段はない。

 折れた腕は今でも痛む。


 強盗の真似事でも出来れば良かった。

 能天気に笑うNPCからは簡単に奪えそうだ。

 何度もそう思ったが、出来なかった。


 今日もただ冷たい地面で横になり、

 太陽が昇って落ちるのを見届けた。


 時々他のプレイヤー達の姿を見た。

 誰も彼もが光のない眼でさ迷い、ゴミ収集箱のようなものを空けては閉めていた。

 見ていた限りゴミが投棄されたことは一度もない。

 だが、プレイヤー達は空けては閉めていた。


 地獄のようだ。

 夜には冷える。冷たい風にさらされ、傷が痛む。

 空腹で腹は何度も鳴る。

 最後に食事をしたのはいつだっただろう。

 さらに一週間が過ぎた。


 もう何も考えたくない。


 始まりの街の大通りの方で鐘がバカみたいに叩かれているが、様子を見に行くことも出来なかった。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

「うわ、ぐわぁぁ!」

 珍しい。外周で唸り声以外を耳にするのは強盗されて以来だろうか。


 何気なく、顔を上げるとそこにはトカゲの兵士がいた。

 リザードマンと言えばわかりいいだろう。

 剣も、盾もあれくらいのさえあれば俺もこの世界で生きて行けただろうか。


 リザードマンが近付いてくる。

 不思議なことに、悲鳴は出なかった。

 そんな元気がないだけかもしれない。

 口から涎が垂れている。食べられるのかもしれない。

 そう思うと、ぞっとした。


「し、死にたくない」

 言ってびっくり言えてびっくりだ。

 俺はまだ死にたくないらしい。


「く、来るな」

 何日振りに口を開いただろう。その上でかい声だ。


 リザードマンがノシノシ歩いて来る。

 尻尾が地面を擦り、恐怖感を煽る。


「た、助けてくれー!」

 リアルだったら糞尿を垂れ流したかもしれない。

 そんな俺の叫びは、

「珍しいっスね」

 救世主を呼び寄せた。


 リザードマンが悲鳴を上げる間もなく光の粒になる。

「V因子のない脱落プレイヤー何て、珍しいっス」

 救世主はまだあどけない少女の姿をしていた。

 とても防御力があるとは思えない薄着で、ファッションなのか羽飾りの髪留めをしている。


「うん、やっぱりV因子無いっスね」

 少女が緑色の瞳で俺を見る。

 不思議と恐怖感はなかった。

 トラウマだと思っていたけど大丈夫だった。


「ギルドに行くといいっス。あ、でも明日の朝まで待つっス」

「ど、どうして?」

「今大狩猟祭中でモンスターがわんさかいるからっスよ」

 少女の姿が、掻き消えた。

 待って。そう言う暇もなかった。

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