終了したはずの『サウザンド・ジョブ・オンライン』の世界で目を覚まし、その世界で生き冒険していく様は王道のMMORPG小説だと一見思いますが、まず何と言ってもその設定の膨大さに度肝を抜かれました。
参考としたゲームや作品はあるのでしょうが、細部に至るまで『世界』がゼロから生み出されており、これほどの情報量を持った作品はなかなか見たことがありません。その点において唯一無二の個性を発揮しており、ここまでの設定を考えることができるのは、並大抵のことではないと思います。
ただそうした部分は素直に賞賛し評価されるべきですが、それ以外の要素では特別突出している部分は少ないように思えました。
設定とは本来その上に立つキャラやストーリーの魅力を際立たせるものであり、前面に押し出すものではないと個人的に思います。勿論そうした常識やテンプレを打ち破る作品としての魅力はありますが、それでも多くの読者を惹き付ける重要な部分は、設定に比べて作り込みがかなり甘く見えました。世界観が熟考されているだけに、尚更そう感じたのかもしれません。
分厚い説明書や終わらないチュートリアルを延々と見せられているように感じ、キャラの個性やストーリーの起伏によって作品に熱中する、というのが難しかったです。
しかしゲームの設定資料集が好きな人など、そうした需要に対しては強い引力を発揮する作品だとも思いました。マニア受けというか、コアな層からは『代えの効かない熱中できる作品』と思っていただける作品だとも思います。
強烈なまでに分かりやすい個性、それ故に人を選ぶ一点特化型の小説として、読み進めた人の記憶には強く残る作品だと感じました。