第7話
ぽそぽそと。本当に、読んで下さるかたには心の底から申し訳ないのだけれど、読んでも楽しくないわよ……。この土日、ろくに予定がなくて暇だったのがよくないわ。
たぶんわたしは、「勝った」人間なのだろう、と思う。
別に、人生勝ち組ってわけじゃない。いまの仕事先だってボーナスも貰えないような弱小企業で、いつ潰れるかひやひやしてるくらいだ(実はすっごい普通とは方向性の違うブラックなんだけど、その話はいま関係ないので置いておく)。人生勝ち組か負け組かって言われたらわたしは間違いなく生まれてから死ぬまで一分の隙なく負け組で、こうしてぼそぼそすみっこでつぶやくくらいしかできない負け犬で、いまはたまたま幸運の端っこのそのまた端っこにしがみついて人間のフリをしているだけだ。
けど、外から見たらわりと普通の人生でしょう。高校卒業して、一年あいだあけて(働いてたのでね)大学入学して四年で卒業してそのまま正社員として就職。貸与型ではなくて給付型の奨学金を受け取ってたから奨学金の返済もない。何の問題もない、普通の人生だ。一応実家を出て、自立できているしね。
だからこそね、今さらグチグチ言うのは鬱陶しいだけっていうのはよく理解できる。大学時代はリアルタイムだったから周りも眼を瞑ってくれていたけれど(本当に、学生時代のわたしは頭がおかしいひとだった。母親が父親に殴られてたとか包丁むけられてたとかって話を笑いながらしてた。それがあんまり普通じゃないってのは判ってるつもりでも、どのくらいアカン枠だったのかは理解できていなかった。正直、今でもあんまり判ってないけど)、さすがにいまは許されないでしょう。外から見たらもう終わってる話で、わたしにとってももう終わってる話で、いつまでもつまらない話をされるのはただのウザいひとだ。知ってるよ。わたしが聞く側だって同じこと思うよ。
けどねえ、そういう問題じゃないのよ。だってわたしは頑張って、頑張って、頑張って、ただ生きることに必死だった。正直ね、もうちょっといい企業に就職したかったよ。いい企業ってのがどんな会社なのかはいまいち判らないけれど、そこそこ将来の心配がないくらいの会社に入りたかった。だってこんなに頑張ったんだもの。まあ現実はこんなものだけれどね。仕方ないよね、わたしだもの。
でもね、何か良いことがあったっていいでしょう。例えばそれこそいい会社に入れるだとか、愛する人と出会えるだとか、何かね、どんなことでも良いんだよ。ご褒美が欲しかったの。死ぬほど就活して就職が決まったときだって、誰にも褒めても貰えなかったけど。でもね、何にもないよね。だってわたしのなかは空っぽで、何も残ってないとかじゃなくて最初から本当に空っぽで、何にもない。あれだけ頑張ったのにね、何もないよ。誰かを好きになれる気もしない(そもそも母親は恋愛結婚であの結末だ、そう考えると恋なんてしない方が安全なのかも知れない)。仕事で充足するとか、幸せな家庭を築けるようになるなんて気もしない。何にもないよ。
わたしはね、少なくともひとを殺したことはないし、麻薬をやったこともないし、リスカとかしたこともないし、万引きとか盗みとかしたこともない。風俗で働いたこともなければ、売春もしたことない(すればたぶん楽だっただろうにね)。成人前にお酒だの煙草だのやったこともない。ばかみたいに何もない、普通の、ただの人間で、でもね、ただの人間に見えるでしょう。そうなるように頑張ったんだよ。この前、仕事で一緒に食事したひとに箸づかいを褒められたよ。「両親に愛されてたんだね」って言われたよ。普通の人間に見えるように振る舞ってるんだよ。わたしはそういう意味で、ある程度自分の人生に「勝った」んだと思ってる。
まあでもね、そういうこっちゃないんだよ。頭で思ってるのと感情は別問題でね、子どものように泣きわめきたくなることがあるのです。友人が休職して留学するって聞いたときはね、本気で恨めしかったよ。泣いたもん。わたしだって自分の後ろが崖っぷちだって自覚していなければちょっとくらい向こう見ずなことしてみたいよ。羨ましいよ。
ずっとね、幸せになりたいって思ってる。幸せってのがどんなものか全然判らなくて、想像も出来ないからもうどうしようもないんだけど、幸せってどんなもんだろう。幸せになりたいんだよ。
でもまあ、仕方ないよね。何もかも全部、終わった話だって思うでしょう(父親はたぶん生きてるだろうけどね。本当に困ったら養子縁組を切っちゃえば良いよって言われてる)。そりゃあね、終わったよ。だって母親は亡くなって、あとは父親が亡くなるのを待つだけだ。わたしに不利になりそうなら財産も何もかも放棄しちゃえばいい。老人ホームだの病院だのの支払いの心配もしなくていいし、介護の責任だってわたしに降りかかることはない。終わったことだよ。
けどね、なんというかね。そういうこっちゃないのです。だからこそここに逃げ場を作ったんだし(さすがにリアルの友人に訴えたらこれは愛想を尽かされるわ。当たり前だわ)、こんなくだらないことをつらつら垂れ流してる。何もかももう終わったことだって思うでしょう。
そういうこっちゃないのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます