神官マロの力
「あなたは偉大な神官様なのですね。話を戻しますが、どうか私達を許して欲しい……そうすればすぐに出て行きますので」
「お前も理解しない奴だな……。最初に言っただろう……私にはどうにも出来ん。全ては神々が決めるのだ」
その時、突然マロの背後の三体の像の目が光った。どうやら裁きが始まったらしい。くそっ! 間に合わなかった! これから一体何が起こるのか僕には全く想像もつかない……。
沈黙の中でただ重い緊張感だけがこの部屋の空気を支配していた。
「うわああああ!」
まず最初の犠牲になったのはサイトーさんだった! 彼は突然苦しみだしたかと思うとその姿がみるみる変わっていく……。
何て事だ! こんな時に一番頼りになるはずの人材をいきなり失ってしまうなんて……。僕はその様子を眺め、何も出来ずに呆然としたまま無意識の内に声を漏らしていた。
「これが……裁き……」
サイトーさんはシン様の裁きを受け――その身を――きゅうりに変えられていた。こ、ここできゅうりですか……。きゅうりになったサイトーさんは文字通り手も足も出ない状態に。
その様子を見て、ユウキ君は驚きのあまり言葉も出せずに固まっている。サイトーさんの隣りにいたサキちゃんは、すぐにそのきゅうりを拾って抱きしめていた。
「サイトーさん……どうして……」
「ふははははは! シン様の裁きは絶対なのだ!」
マロはそう言って高笑いをしている。人がきゅうりになって何でそんな態度が取れるんだ……っ! それは僕らが奴にとっての異教徒の侵入者だからだとでも言うのだろうか。
僕は交渉の事も忘れて、マロに自分の感情をストレートにぶつけた。
「おい! 笑うな! 彼は有能な隊員だったんだ! それを……」
「奴がどんな人間だろうと関係ない! それが神の裁きと言うものだ」
マロのこの言葉に僕は違和感を覚えた。この神の裁きは本当に"神"の裁きなのだろうか? 奴の背後にあるあの3体の像は本当に自発的に裁きの対象を決めたのだろうか? 色々頭の中に疑問が渦巻いて、僕はその思いを突発的に口に出していた。
「……本当にそうなのか? 本当に神の裁きなのか?」
「お前も神を疑うのか? 信仰なき者は罰を受けるぞ……」
僕の言葉にマロは不敵な笑みを浮かべて答えた。この顔、やっぱり怪しい! この顔は、そう、例えて言うなら強力な後ろ盾を持った時の粋がっているチンピラの顔だ! これは奴の言葉通りの事が起こった結果じゃない! 絶対何らかのからくりがある! 僕はそう確信した。
そうして像の目が光った時にこの部屋の状況に何か変化がなかったか、ユウキ君に聞いてみる。
「ユウキ君! 何か今までに状況の変化はあったか?」
「いえ、各センサーは今のところ何の異常も感知していません!」
「サキちゃん、外部との連絡は?」
「それが……全然通じないんです!」
センサーが異常を感知しない――どう言う事だ? どう見たって目の前の邪教の神官が怪しいと言うのに。もしかしたらセンサーが感知しない異常があるのかも知れない……この星独自の法則か何かが……。実際に人をがきゅうりになるなんて、地球では考えられない現象が起こっているのだからそれも有り得る話だ。
しかも外部との連絡がつかない? こっちの方は絶対妨害している何らかの仕組みがあるはずだ。僕はここまで得た情報を頭の中で整理した。そこから導き出した結論は――。
「……そもそもその像の目が光るのが怪しい……仕掛けがあるとするならっ!」
「愚か者っ! 神聖なるシン様の像に触れるでないっ!」
「文明の力で勝負だっ!」
僕はマロの背後の像に狙いを定めて、マロに止められない内に素早く銃を構えて奴の背後の像を撃った。どれほどの効果があるか分からないけど、ここで何かしないとどうしても気が収まらない。
僕の握ったレーザー銃から射出された緑色の光弾が正確に像の胴体を貫く! どうだ!
僕の攻撃を受け、目が光った像だけはズシャァァと言う音と共に崩れていった。残りの像は見えない謎の力が壁を作り、僕の撃った弾丸を弾いている。
この事から、ひとつの像はひとりの相手をきゅうりにする能力があると推測された。そして、その力を使うと能力を使い果たしてしまうだろうと言う事も。
そうなると――僕らの中で誰かひとりだけが助かる? いや、この部屋にはまだまだ謎の仕掛けがあるかも知れない。この状況の中で楽天的な考え方は止そう。何しろこれからだって何が起こるか分からないのだから。
「おのれ……偉大なるシン様を! 許さぬぞ!」
大事な像をひとつ壊され、マロは怒り狂っていた。僕は像の仕組みから考えてこのマロの言う神罰の正体を掴みかけていた。恐らくあの像は――マロが何らかの方法で操作している――。そう考える方が自然なんだ……つまり……マロを押さえればこの状況も終わる……はず!
僕は銃の弾を素早く麻酔モードに変えてヤツを撃った。うまく行けばこれで……。
「馬鹿め……私にそんなものが効くとでも?」
僕の攻撃は見事に弾かれた。そう、シン様の像を守ったあの壁がマロにも展開していたのだ。くそっ! この銃では奴に傷ひとつ付けられないのかよっ!
僕の攻撃を余裕で防いだマロは、得意げな顔で手を前方にかざした。やばい! 悪い予感しかしない!
「罰を受けよ愚民共!」
「しまっ……」
「うわああああ!」
「キャアアアア!」
何て事だ……。ユウキ君やサキちゃんまでがきゅうりになってしまった。こんな……こんな展開ってないよ! 2人が何をしたって言うんだよ!
異星の謎の遺跡の部屋にマロと僕ときゅうりが3つ……何てシュールな光景なんだ。
こんな状況になって僕はどうしたら良い? 今すぐ逃げるか? 扉が閉まっているのに? どうにか交渉して隊員のきゅうり化を解いてもらう? 今の奴にはどんな言葉も通じないだろう。
ここは逆ギレして攻撃を……その攻撃が通じない事はさっき実証されてしまった。
僕はありとあらゆるシミュレーションを頭の中で展開させて――そしてどれも失敗していた。そうして何も出来ないでいる僕に対して、マロが不敵な笑みを浮かべたまま僕に尋ねて来た。
「神の裁きに例外はないが……。お前はこれからどうする? まだ歯向かうか?」
「もう像の力は使えないだろ? 僕をどうやってきゅうりにする気だ?」
余裕しゃくしゃくのマロを前に僕も精一杯の強がりを言った。そんな言葉が通じる相手ではない事は百も承知だったけど……。
思った通りマロの顔色に何の変化もない。奴は狂気じみた顔のまま僕に言った。
「なあに、簡単な事だ……私が直接触れればいい……」
「や、止めろ……やめろおおっ!」
僕はもうやけくそで銃を乱射する。何度も攻撃すれば、もしかしたら奴のシールドが破壊出来るかも知れない。
しかし……何度撃ってもそのシールドには傷ひとつつかなかった。
マロはそのままゆっくり僕に近付いて来る………ああ、ダメだ、恐怖で足が動かない……。嘘だろ……まさかこんな展開でこの夢は終わっちゃうのかよ……。
ああ……マロの顔が怖い……狂信者特有の正気を失って常軌を逸したその顔が……。
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