トラブル発生!
僕らが部屋に入ってしばらくして、さっき入って来た入口がゴオオオンと大きな音を立てて突然閉まってしまった。扉なんて最初はなかったはずなのに、まるで潜水艦とかの隔壁が閉まるみたいにいきなりそれは起こったのだ。
「な、なんだ?」
急に起こったアクシデントに僕らは周りを警戒した。それはこの遺跡に入った僕らが初めて体験する"罠"だった。
「お前達、この神聖なる場所に儀式も経ずに独断で入って、その罪、分かっているんだろうな!」
部屋に閉じ込められた後、部屋の奥の方で確かにそんな声がする。……しかもそれは聞き覚えのある声だった。
僕らはみんな一斉に声がしたその方向に顔を向ける。
「許しなき者は去れ! 汚れし者共よ!」
そこにいたのは――マロだった。まさかそんな役回りなのかよ! ヤツは異星の怪しげな服装で、まるでゲームのボスキャラの邪教の教祖のような出で立ちをしている。
しかもそれが結構似合っているって言うね――これは一体どう言う事だってばよ?
「あなたがここの責任者ですか?」
突然のこの星の住人の登場にユウキ君は目を輝かせて、あのどう見ても怪しいマロに無防備に近付いていく。流石未知の状況に興味を抱く学者らしい行動ではあるんだけど、それは余りに不用心過ぎる。
僕はこの行為に不安を感じ、思わず彼を大声を叫んで止めた。
「ユウキ君、不用意に近付くんじゃない!」
この言葉を受けてユウキ君の動きは止まった。滅多に叫ばない僕が大声を上げたから敏感に反応させてしまったようだ。
「言葉が通じる……何故?」
「へっ、奴が敵なら迎え撃つまでだ!」
サキちゃんはマロの言葉が分かる事について疑問を感じている。それは当然の感覚だろう。それに対して流石は武闘派のサイトーさん、既に戦闘態勢はバッチリ取れていた。
「お前達……儀式で祝福も得ていない者が、この祝祭の間でどう言う末路を経るのか知らんな?」
マロはそう言うと、おもむろに両手を掲げる。これはやばい! うまく説明出来ないけど!
僕は何が起こっても原因をすぐに特定出来るように室内の様々なデータを取っておこうと考え、ポケットの中の小さな簡易観測装置のスイッチを入れた。今はまず何が起こっているのか、そして何が起ころうとしているのかを正確に把握しなければ。
「みんな! 取り敢えずこっちへ!」
みんなをマロから最も離れた部屋の隅っこに集める。ユウキ君だけは行動に少し戸惑いが感じられたけど、それでもちゃんと全員僕の指示に従ってくれた。うん、いいチームだ。
僕は今後の事を考え、ここは警戒を最大限にした方がいいと感じ、早速各隊員それぞれに指示を出す。
「サキちゃんは何とか外と連絡を取ってみてくれ! サイトーさんはもしものための戦闘準備を! ユウキ君は彼への説得の言葉を考えてくれないか」
「隊長はどうするんですか?」
ユウキ君が心配そうな顔をしてそう聞いて来た。僕は彼を安心させるようににっこり笑うと隊員全員に言い聞かせるように言う。
「僕は取り敢えず奴と話をしてみる……理屈は分からないけど、言葉が通じるんだ……うまく行けば交渉に応じてくれるかも知れない」
マロとは今までの夢の中での腐れ縁だ。きっとうまくやれるはずだ。僕はまず手のひらを開き両手を広げ、無抵抗の意思表示をしながらゆっくりと奴に近付いた。
「やあ、はじめまして。突然の無礼を許して欲しい。我々も悪意があってここに来た訳じゃないんだ」
「お前は団体の責任者か……よく見ると部外者のようだな。この神殿の掟も知らないとはとんだ田舎者め」
い、田舎者? この都会っ子の僕を? まぁ今の奴の設定の中では、そう言う事なんだろうな……。色々言いたい事も勿論あったけど、今は奴に合わせた方が交渉もしやすいだろうと考え、話にそのまま乗っかる事にする。
「あ、ああ……。実はそうなんだ。もし良かったらその掟と言うのを教えてくれないかな?」
「ふん、田舎者に教える知恵なぞないわ。知っていようとそうでなかろうとここの掟は絶対……裁きは誰にも変えられん」
何だよ、折角話に乗っかってやったのに全然こっちの思い通りに行かない。今回のマロは手強いな。ヤツは何か強い信念に従って生きている感じがする……目も逝っちゃってるし……。
しかし裁きだって? これはこれからとんでもない事が起きそうな――いや、マロがそれを起こしそうな――そんな危険な予感がする。ここは出来るだけ慎重に言葉を選ばなくては……。
「裁き? 一体何が起こると言うんです?」
「許しなき者がこの部屋に入った時、この3体のシン様は目覚め、その罪に応じた罰を下すのだ」
マロの背後にある邪神像……シン様って言うのか。目覚めるってどう言う事だ?
そしてその像が目覚めると言う事が奴の言う裁きなのか? 見たところ、まだあの像は目覚めてはいないようだ。それならまだチャンスはある。
それにどう見ても関係者のマロならきっとそれを止められる……はず。最悪の事態を避けるためにもここは交渉を続けよう。
「この像が……あなたにも止められないのですか」
「この私がシン様の裁定を止める? 出来る訳がない」
は? 止められないだって? それだけその教え(?)に心酔しているのかも知れないけど、奴の後ろの像はどう見ても勝手に動き出すようなそんな類のアレにはどう見ても見えない。普通に考えて、ここにマロがいる事によってこの一連の怪しい事態になっていると考えるのが妥当だ。
もしそうでないとしたなら、この場所での奴の存在意義は一体何なんだ。
ああもう、頭の中で疑問ばかりが湧いてくるっ! 僕はその頭の中に渦巻く言葉を口にせずにはいられなくなって、思わずヤツにぶちまけていた。
「では、何故あなたはここにいるんです? 他の住人は一体どこに?」
「貴様ら本当に何者だ? ……災厄を生き延びた人間なのかどうかすらも怪しい」
「災厄……?」
僕の疑問を受けてまたマロの口から謎ワードが飛び出した。災厄……何て意味ありげな言葉なんだ。
その言葉から察するに、この星に住人が見当たらなかったのは多分その災厄のせいなんだろう。頭の中で今までに得た情報を整理しているとマロが突然語り始めた。
「災厄も知らぬのか……2000年前の獣の日、災厄によって我が国の民は地上に住む資格を失ったのだ。その罪を償う為、選ばれし一族は日の当たらぬ場所で許されるまでそこで暮らす事となった……」
「で、その災厄の規模はこの国だけには留まらなかったと……?」
「その通りだ。それからこの国では地上に出る事を許されるのは常に各神殿にひとりの神官のみ――そう定められた」
このマロの話から推測すると、その2000年前の事故か何かでこの星の住人は地下に避難出来た極一部を除いて絶滅してしまった……。きっとそう言う事なんだろう。
当時は生物も生息出来ないような過酷な環境だったかも知れないけど、現在のこの星は緑に覆われていて、探査機からのデータを計測しても数値上は特に何も問題はない。
もう避難していた住人達が地上に出て来ても問題ないように思えるんだけど、彼ら一族にはまだ何か地上に出られない問題があるのだろうか?
「その罪はいつ許されるんですか?」
「貴様は知りたがりだな……。許しの時期はまだ神々から頂いていない……神託次第なのだ」
このマロの言葉をそのまま受け取るなら、この星の文明は何から何まで神様頼りらしい……。やはり文化の発展方法が違うんだな。
つまり科学的根拠は重要視されないのか……。文化の違いをどうこう言うつもりはないけど、少し残念な気はする。
おっと、知的好奇心を満たすのに夢中で肝心な事を忘れていた。こんな事をしている場合じゃない。
交渉を再開させよう。ここは何とかマロをおだてて脱出の糸口を探さねば。
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