第3話 FXで溶かしたネコ

「よーし! よしよし!」


 ネコの趣味はマネーゲーム、株取引です。今日も日々変動する株価を睨みながらお目当ての銘柄を買ったり売ったり大忙し。最初はほんの遊びのつもりでしたが、今ではすっかりハマってしまい、かなり大きな金額を動かせるまでになりました。

 大好きなきゅうりをかじりながら今日も画面とにらめっこ。


 ボリッ!

 ボリッ!


「ああ~優待券も溜まってきたにゃ~」


 ある程度の株を購入すればもらえる株主優待券。今のネコの生活もかなりこれに依存するような状況になっていました。

 アンニュイな午後にモニターの画面を見ながら過ごす生活。それは傍から見れば不健康そのものです。掃除も忘れて夢中になっていたせいで、ネコの部屋の中はゴミ屋敷と化していました。


 それでも生活は回るしこの生活にネコは何の疑問も抱いていませんでした。

 けれど株は魔物、決して油断してはいけなかったのです。


 それはある何の変哲もない穏やかな昼下がりの事でした。


「にゃん……だと……?」


 ポトリ……。


 突然の出来事に、ネコは咥えていたきゅうりを口から落としてしまいます。そうして、画面を見ながら言葉を失いました。

 こんな何でもない有り触れた午後に一体何が起こったと言うのでしょう。


 そう……、それは突然の悲劇でした。ネコが一番力を入れていた株が突然大暴落したのです! 突然! もうその株には何の価値もありません……何と言う事でしょう!


「あ……ああああああああ! うあああああああああああああああ!」


 こうなる日が来るかも知れないとネコも警戒はしていました。色んな情報を仕入れて必死にそうならない対策もしてきたつもりでした。

 けれど今回は――今回は間に合わなかったのです。ほんの少しの油断がとんでもない悲劇を起こしてしまいました。


「うそにゃ……こんなのうそにゃ~!」


 どれだけ嘆いても時間は戻せません。借金してまで大量に買っていた株が……無価値に……。それは現代でも当たり前に起こる悲劇のひとつです。

 今の今まで普通の暮らしを……株でちょっとは儲けて、多少リッチな生活をしていたのに……。そんな生活ともおさらばしなくてはならなくなりました。


 その後、ネコは住む場所をなくして苦労に苦労を重ねました。幸い捨てる神あれば拾う神ありで、何とかまた普通に生活する事が出来るようになりましたが、もう二度と株に手を出す事はなかったと言う事です。


 それと当時好きだったきゅうりですが、きゅうりを見ると今でもあの日の事を思い出してしまうらしく、大好物だったのに今ではすっかりきゅうり恐怖症になってしまいました。

 ネコがきゅうりにびっくりしてしまうのは実はそう言う事だったのです。


 みなさんも株をする時は無謀な事はしないようにしましょうね。人生にスリルを求める人以外は地道に堅実に生きるのが一番ですよ。

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