第4話 空から飛んで来る

 野球部のヒーローのクマはパワーヒッター。どんなボールも簡単にホームランにしてしまいます。そんなクマは練習熱心。今日も公園で相棒のペンギンと一緒にバッティング練習をしています。


 カキーン!

 カキーン!


 どうやら今日もクマは絶好調のようです。あまりに好調なので用意したボールがどんどん減っていきます。あれれ……もう残りのボールがあんまりありませんよ?


 クマは練習が途切れてしまうのを一番嫌います。そんなクマは一度機嫌をこじらすと押さえるのが大変です。流石にクマですからね。ボールが無くなったと知ったらどうなるやら……。

 練習は二人でしているので、飛んだボールを回収する暇がありません。さて、ペンギンはこの窮地をどう乗り越えるでしょう。


 ちょうどその頃、その公園の近くをネコが歩いていました。どうしてそんな所を歩いていたかと言うと、それがネコの日課だったからです。

 ネコは何の疑問も抱かずにのほほんと日課の散歩を楽しんでいました。近くの公園から聞こえる打球音をBGMにしながら――。


「今日もいい天気だにゃ~」


 ネコはいつもの日課の通りに公園に近付いて行きます。それはネコにとっては当たり前の行為でした。公園に誰がいても、そこで何をやっていたとしても、それは変わりません。むしろ聞こえてくる打球音に興味を抱いたくらいでした。


 けれどそれが今回はあまり良くなかったのです。


 パコーン!

 パコーン!


 公園から聞こえてくる景気のいい音。


 シュルルルー!

 シュルルルー!


 空気を切り裂く鋭い音。


 ドガッ!

 ドガッ!


 何かが空から落ちてきて地面にぶつかる音!


 その空から落ちてきた物は公園に近付いていたネコを狙うように落ちて来たのです! それはネコを狙ったのかそれが落ちる場所にネコが近付いてしまったのか……。何が何やら分からなくて混乱したまま、ネコはこの突然の謎の手荒い歓迎にびっくりしてしまいました。


「なんにゃなんにゃ! なんなんにゃっ!」


 ネコが空を見上げると、また空から何かが飛んで来ます。飛んで来る謎の物体は長くて緑色をしていて――どう見てもそれはきゅうりでした。


 ものすご勢いでネコを目掛けて飛んで来るきゅうり。それは傍目から見たらとてもシュールな光景でした。


 そもそも何故きゅうりが?

 

 実は、投げるボールがなくなったペンギンがボールの代わりにきゅうりを投げていたのです。ペンギンは公園に集まる前にきゅうりの収穫を手伝っていて、お駄賃に沢山のきゅうりをもらっていました。

 投げるボールがなくなって困ったペンギンは、とりあえずそれを投げようと思いついたのです。


 クマは投げられるものがボールだろうが、きゅうりだろうが、ばかばかと打ち上げていました。クマからしてみればバットで打てる物なら、その対象はボールでもきゅうりでも何でも良かったのです。


 たかがきゅうり、されどきゅうり。ものすご勢いで飛んでくれば、きゅうりと言えども直撃すれば痛いで済む程度の被害では済みません。ネコは怖くなって必死で逃げ出しました。逃げる最中も遠慮なく空からきゅうりは襲ってきます。

 襲い来るきゅうりの恐怖に怯えながらネコは走り抜けました。幸い、ネコはきゅうりに当たる事なく何とかその場を無事に離れる事に成功します。


 しかし、ネコはその事が原因できゅうりがトラウマになってしまったのです。ネコの側にこっそりきゅうりを置くと、ネコは当時の事を思い出してびっくりしてしまうようになってしまいました。


 どうか皆さんはいたずらでもネコにそんな事はしないであげてくださいね。

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