第2話 ネコの友達
ネコには友達がいました。きゅうりが大好きなカッパです。ネコとカッパは幼い頃から仲良していつも一緒でした。学校でも部活でもお休みの日も二人はいつも一緒です。
趣味も合い食べ物の好みも合いお笑いのセンスも一緒でした。そんな訳でネコとカッパはいつも楽しく過ごしていました。
そんなある日、カッパのお父さんが遊園地のチケットを手に入れて来ました。ネコもカッパも前から行きたがっていた大人気の夢の国の遊園地のチケットです。
仕事のツテで手に入れたそのチケットをカッパのお父さんはカッパにプレゼントしてくれました。
カッパは喜んですぐネコにその事を話しました。カッパの話を聞いたネコもすごく興奮しながら喜びました。
そうして2人は次の休みの日に遊園地に遊びに行く約束をしました。
そうして時間はあっと言う間に過ぎていきます。楽しみが待っているとそれまでの時間がどれほど短く感じる事でしょう。
次の休みの日まで時間は一瞬の内に過ぎ去って行きました。
そして待ち合わせ当日のお休みの日、カッパは前の晩から興奮して一睡も出来ないでいました。その流れでカッパは待ち合わせの2時間前から待ち合わせ場所の駅前でネコを待っていました。楽しみ過ぎてもういてもたってもいられなかったのです。
駅前でネコを待つその2時間も今のカッパには決して長い時間ではありませんでした。何故ならそれからの事を考えると、楽しい想像ばかりが頭に浮かんで全然退屈なんてしなかったのです。
カッパは待ちました。ずっとずうっと待ちました。楽しい事を考えている内にやがて待ち合わせの時間となります。
しかし来るはずのネコは現れません。カッパはおかしいな? と思いながらそれでも待ち続けました。
どれだけの時間が経った事でしょう。残念な事にその日は結局カッパの前にネコが現れる事はありませんでした。きっと何か事情が出来てこれなかったんだとカッパは思います。今まで一緒にいてネコがカッパとの約束を破った事など一度もなかったからです。
なのでカッパはネコの事を心配しながらその日は家路につきました。
次の日、カッパが学校に向かっているとネコの姿を発見します。ネコはいつも通りのようで、心配していたカッパはほっと胸を撫で下ろしました。そこでカッパはいつも通りにネコに声をかけます。
「おはよう! 昨日はどうしたの?」
「え……? あ……うん……」
カッパに話しかけられたネコは何故だかかなり気まずそうです。動揺したネコは思わす顔を逸らしながらそう答えるのでした。
そんなネコの態度を見て何かを察したカッパはそれ以上は何も追求出来ません。
ポリッ!
ただ常備しているきゅうりをポケットから取り出してひとかじりするだけでした。
教室に入って来た2人はまだぎこちない感じでしたが、それでもカッパが気を使っていたので、それなりに何とか今までの関係を維持出来ていました。そんな2人の前にクラスメイトが陽気に声をかけてきます。
「お~いネコ~! 昨日のデートはどうだったよ~?」
それはクラスでも一番のお喋り好きのキツネでした。彼に話が伝わると一日で全校に話が浸透するとさえ言われています。そんな人物にそう言う話が伝わっていました。
「オレ見たんだよねー。まぁ別に詳しく聞くつもりもないけどさー」
「え? 何……? あの……」
キツネからの思わぬ言葉にネコはうまく対応出来ません。キツネは噂好きなので勿論いい加減な情報を流す事もありましたが、大抵の話は真実でした。
キツネの話を聞いて動揺するネコを見て、カッパもある程度の事は察しました。ずうっと2人一緒にいたのですから、大体の事は話さなくても様子を見るだけで分かります。
そのキツネの一言のせいで、ネコとカッパは初めてと言っていいくらい心が離れてしまいました。
カッパは何とか普段通りに接しようとするものの、ネコが避けてしまうのです。
その後の授業も
その後の給食も
その後の掃除も
2人はモヤモヤな関係のまま、やがて時間は放課後になりました。この後の2人には部活が待っています。部活は2人共陸上部に入っていました。
けれどネコは部活をサボりました。多分初めてのサボりです。部活をサボるのはいけない事です。
でも今のネコにとって、こんな気持ちのままで部活なんて出来なかったのです。カッパに見つからないように気配を消して、一気に校門に向かって駆け抜けました。
急いで駆け抜けるネコの目に校門が見えて来ます。ここを抜けるともうそこは学校の外。ネコはやっとこの抑圧された空間から開放される、そんな気持ちになっていました。
「やった!」
校門を抜けてネコはようやく安心して一言吐き出しました。肩で息をしたネコが呼吸を整えて改めて正面を向くと、彼の目の前にカッパがいたのです。
そう、長年一緒にいたカッパにとってこんな時ネコがどう言う行動をするかなんてまるっとお見通しだったのでした。
「あれ?」
ネコは間抜けそうにそうつぶやいてしまいます。ネコの行動を読んだカッパは苦笑いをしながら言いました。
「本当、分かりやすいよね」
「あはは……」
ネコも釣られて愛想笑いをします。
「良かったら話してくれない? 無理ならいいけど……」
「ごめん……」
カッパの控えめな追求にネコは小さな声で謝りました。そうして一呼吸置いて、ようやく事の顛末を話し始めます。
待ち合わせの約束の次の日、ネコは初めて女の子に告白された事。初めての事で興奮して勢いでその告白をOKしてしまった事。それから女の子から初めてのデートに誘われた事。そのデートの日と遊園地の約束の日がブッキングしてしまった事。いつかその事をカッパに話そうとして結局話せなかった事。
そう、朝の噂好きのキツネのあの話はやっぱり正しかったのです。ネコがデートしている時に、その様子をその場に偶然居合わせたキツネに見られてしまっていたのです。
「そっか……。デート、楽しかった?」
「えっと……あの……うん……」
カッパの言葉にネコは小さく頷きました。申し訳なさすぎてそれ以上大きな声で話せなかったのです。
カッパはそのネコの言葉を確認すると、じゃ……と小さくつぶやくとトボトボと帰り始めました。ネコはそのカッパの後姿をただ眺める事しか出来ませんでした。
ポトリ……。
その時、家に帰るカッパのポケットからきゅうりが落ちました。きゅうり好きなカッパにとって普段ならそんな事は絶対に有りえません。
つまりそれだけカッパは心が動揺していると言う事でもありました。
「あ……」
ネコはカッパにきゅうりが落ちた事を伝えようとしましたが、結局大きな声は出せませんでした。カッパのポケットから落ちたきゅうりは道端に転がって、ただ夕日に照らされるばかりでした。
それからしばらくしてカッパは姿を現さなくなります。何日経っても、親友であるネコの前にすらもです。
カッパがあまりに姿を見せない事に対して、ネコは心配になってカッパの家に行ってみる事にしました。
そうしてカッパの家の前についたネコは呆然としました。何故ならカッパの家はもう空き家になってしまっていたからです。
カッパの家だった家についた売り家の看板の前でネコは言葉を失いました。
カッパ一家はいつ引っ越してしまったのでしょう? それはもう誰にも分かりません。
一番の仲良しだったネコにすら知らせていなかったくらいです。ネコはカッパとちゃんと向き合えなかった事を後悔しました。
ネコは今でもカッパにちゃんと謝れなかった事、仲直り出来なかった事を悔やんでいます。カッパが大好きだったきゅうりを見る度にカッパの事を思い出してしまうのでした。
なのでネコの前にきゅうりを出すとびっくりして飛び上がってしまうのです。
みなさんはこうならないように友達に秘密を作っちゃいけませんよ。例え嘘をついてしまっても、後でちゃんと謝って許してもらう事。一度失った友情は取り戻せないんですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます