第27話 知らぬこころ

「俺たちが金内先生の家に行っている間に、大賀とウメさんが会って秘密の商談してたっちゃられら!」


「Exactly(そのとおりでございます)」


あまりの事実にろれつが回らない。


「どちらかといえば、おふたりを大賀さんに会わせない為、厄介払いをした。というのが正しいかと」


「なんだってんだよー!」


ウメさんによる大人の対応に打ちのめされ、俺はポケモン勝負に負けたライバルのごとく叫んだ。


「ウメさんは、どんな内容の契約を結んだんだ?」


「さあ、詳しい中身は知りません。ただ、ドリーマーズラウンジラウンジの権利書を大賀さんに渡したんじゃないかと思っています」


あの大賀が納得する契約となると、よほど不利な契約に違いないが、遠い岡山の地にいる現状じゃ何も出来ない。ドリーマーズラウンジに戻ったら、ウメさんを問い詰めるとしよう。


巻き込まない為のウメさんの優しさだとわかっていても、俺は納得できない。だって水くさいじゃないか。


「こころさん、ドリーマーズラウンジが無かったら、僕はいまここにいないんです。きっと夢も諦めていたと思います。あの日、こころさんが梅田さんの為に立ち上がって、みんなの夢を守ろうとしてくれたから。仲間と夢を追う姿を見せてくれたから、僕も諦めずにここにいるんです。僕はドリーマーズラウンジが、みんなが大好きです。でも、脚本家になる才能は残念ながら無いみたいで、色んな講師の方にアドバイスを貰いましたが、別の道を探した方が良いと言われました。だから僕は、ウメさんのように才能のある人を応援したいんです。こころさんに撮影を頼まれた時、この旅の動画は、その第一歩になるかもしれないと考えたんです」


「ワッキーがそんなこと考えてたなんてな。いいじゃん、でも夢も諦めんなよ。俺は才能なんて関係ないと思う。勝ち負けがあるとしたら、世の中やったもん勝ちなんだよ。やってないのと比べたら、やった時点で勝ちなんだ。やらずに後悔するくらいなら、やれるうちに色々やったらいい。結果はいつも、やったあとに出るんだから」


自分の行動が誰かに影響を与えていたなんて、夢を追う姿が夢を追う勇気を与えるなんて、思ってもいなかった。俺は嬉しさと照れ臭さから、偉そうにワッキーを励ましていた。


そして、金内さんに提出する桃太郎のテーマを決めた。それは主人公が夢を追う姿を描くことだ。1人でも多くの人に夢を叶えてもらいたい。それは夢を追う事から始まる。



イッチーの両親に挨拶を済ませた俺たちは、順番に風呂を使わせてもらったあと、8畳ほどの部屋に案内され、旅の疲れを癒すべく横になった。


使ってない部屋がある。と言っていたが、使ってない部屋を作った。という方が正しいだろう。家具は片付けられていて、布団だけが用意してあった。


イッチーが電源マルチタップを持ってきて、それぞれのスマホを充電させると、騒がしくすると親が怒るかもしれないので、もう寝てしまいましょう。と電気を消した。


身体は疲れていて睡眠を欲していたが、特異な状況のせいか、なかなか寝付けない。なにより、イッチーに石川さとみについて聞きたいが本人が突っ込まれたくなさそうな空気を出すので、もやもやしていた。


すると暗闇の中、大ちゃんが我慢できずに言い出した。


「イッチー、寝る前に石川さとみについて聞かせてもらおうか」


さすが大ちゃん! 俺に出来ないことを平然とやってのけるッそこにシビれる! あこがれるゥ!


「べ、別にお話しするようなことはありませんよ。ただの幼なじみですから」


電気が消えていてもイッチーがあわてふためくのがわかる。


「イッチー。それは、無い」


俺はキッパリ言った。

ただの幼なじみでは無いことは、もうわかっている。俺が知りたいのは、どんな幼なじみなのかということだ。


「今は撮影して無いんだし、打ち明けても良いんじゃない?」


「知っているのか、ワッキー」


ついに大ちゃんが起き上がる気配がして、イッチーが全部打ち明けるまで寝ないし寝させない。と宣言すると、やれやれと首を振りながら、しかし満更でもなさそうに白状した。


「僕はイラストを描くため上京。彼女は実家の弁当屋を手伝うために居残り組。つまり、そういうことです」


「つまりすぎる! もっとこう……あるだろう! ドラマが!」


俺は期待していたストーリーが展開されなかったことに対して、やきもきしながら訴えた。


「脚色しなきゃ現実なんて、こんなもんですよ。テレビや映画は演出があってこそ輝くんです。そういうのはワッキーの方が向いてます」


「事情は知ってるから僕が説明してもいいけど、本人じゃないから主観や想像が入っても余計なクチは挟まないって約束してくれるかい?」


怖い話をするわけでもないのに、部屋の明かりは落ちたまま、せつなくもはかないベッドタイムストーリーが幕を開けた。

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