第24話 ココロオドル

な、長かった。


俺たちは、とこしえにも思われる暗黒の世界を乗り越え、眩しい太陽が降り注ぐ、晴れの国岡山へ辿り着いた。


「いやあー着いたな、岡山」

伸びをしながら大ちゃんが言った。


「着きましたね」


「なんか空気が違うな」


俺たちも家畜運搬車両から牧場に解き放たれたジャージー牛の如く、岡山県の空気を身体中で反芻した。


「おい、見ろよ。きびだんごの試食やってるぜ」


天気はあいにくの小雨ふりそぼる中、おみやげ屋で初めてのきびだんごを試食してから、イッチーの提案で駅前にある桃太郎像を背景に記念撮影をした。


鬼ヶ島方向を望む桃太郎像は、犬、猿、雉、鳩を擁して、雨にも負けず鳥糞にも負けず、決して振り返ること無く、自信に満ちた堂々とした姿で、欲もなく、怒りもせず、そこで銅像としての天分をまっとうしていた。


俺の天分は物語を綴る事だと信じて、決して疑うことも無く、ひたむきに向き合えるようにと、ケツの痛みが引くように願った。


イッチーに岡山駅周辺を案内して貰うには、手荷物が多すぎるので、俺たちはコインロッカーを探したが、構内のロッカーは空きが無いうえサイズも値段もなかなかだった。


コインロッカーを利用するのは大抵が観光客なので、さすがのイッチーもそこまで詳しくない。


「安くて手頃なサイズのロッカーを手分けして探そうぜ、見つけたら集合な」


イッチーがスマホを使って情報を集める中、大ちゃんは自分の足と目でロッカーを探そうと動き回り、ワッキーの撮影を困難なものにさせた。


「すいません、この辺に荷物を預けられる場所はありませんか」


俺は近隣の店を回って聞き込みを開始する。こんなにも需要があるのにロッカーが足りないという事は、きっと他の観光客に聞かれる機会が多く、それに対応してきたであろう店員に聞くのが良いと思ったからだ。


「空いてるかどうかわかりませんが……」


2件目の靴屋で有力な情報を得て、駅前商店街を進んで階段を降りると、希望通りのロッカーが姿をあらわした。


穴場過ぎて利用者が少ないのか、荷物は入っているのに鍵が掛かってなかったり、1週間以上放置されて金額が偉いことになっているものもあった。


「なんか、怪しい取引に利用されそうなロッカーですね」


無事に荷物を預けた俺たちは、まずは腹ごしらえしようと、ご当地グルメで何度も取り上げられているデミカツ丼の店へと向かった。


「うわ、並んでるな」


空腹を耐えきれないのか、いまにも「顔が濡れて力がでない」と言いだしそうな大ちゃんを尻目にワッキーはスマホのアプリを起動して俺たちに突き付けた。


画面にはサイコロの出目と、メニューが書かれていた。


1・これが本物のデミカツ丼だ!

上デミカツ丼1100円


2・シンプルかつ王道

デミカツ丼 750円


3・ちょっと違うけど

ヒレカツサンドイッチ525円


4・ここに来てコンビニ

カツ丼498円


5・カツ丼だけど……

おにぎりカツ丼180円2個


6・もうカツですらねぇ!

カップラーメン


「サイコロ振って、出た目のメニューを食べられるってことなんだな?」


カメラが縦に頷く。


「いやあー聞いてないなぁ」


「6だけは嫌だねぇ」


「もちろんワッキーも振るんですよね?」


みんな口々に不平不満を吐き出しながらも笑顔なのは、面白そうだと感じているからだろう。


待ちきれない様子で大ちゃんが「俺から振っていい?」と許可を得るより早くサイコロを振った。


結果は、なんというか『1』だった。

「よっしゃああああああ!」

大ちゃんが大声で転げ回る。


「よし、迷惑だから少し離れよう」

俺は大ちゃんに賞嘆の蹴りを授与して少し順番待ちの列から離れた。


「どうします? こころさん先にやります?」


「そうだな、オチになりたくないから先に振るわ」


頼む、カップ麺だけはよしてくれ。

俺は祈りながらスマホに表示された『サイコロを振る』のボタンを押した。


「そぉい!」


画面に表示されたのは…


なんと『1』


「よおおおおおし!」


「俺たちって持ってるなー」


「ふふふ……小躍りしたい気分だよ」


お笑い的には、よろしくない結果だったが、俺たちは素直に喜んだ。別にお笑いである必要は無い。


続いてイッチー。


出た目は『2』


「あー、良かったー! お腹すいてるからメチャメチャ緊張しますねこれ」


結局3人とも創業1931年の老舗が提供するメニューを味わうことが出来ることとなった。


「さあ、ワッキーの番だぞ」


笑えない出目に不満顔のワッキーがスマホを受けとる。いまさら「意味無いから、このゲーム止めましょう」と言うわけにもいかず、しぶしぶサイコロを振ると、恐れていた『6』が出た。


オチとしては満点の結果と落胆の表情。しかし震えるカメラマンは茫然自失で、絶好の表情を捕らえることは出来なかった。


「お、おう」


「ま、まあ楽しめたし、別に撮影止めて食べたいもの食べて良いんじゃないか?」


「そ、そうですよ。みんなでデミカツ丼食べましょう」


満場一致でワッキーを励ます。


「ダメですサイコロは絶対です。どうぞ、食レポお願いします。後で遠くからカップ麺すするカット撮ってください」


鬼気迫る執念と迫力に気圧されて何も言えなかった。

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