第14話 夢見る心、追う心

ドリーマーズラウンジに戻ると、すでに皆帰ってきていて、暖かく俺を迎えてくれた。


「おかえりこころくん、大丈夫だったかい?」


ウメさんに全てを打ち明けそうになるのをグッとこらえて、何の収穫もなかったと伝えた。


「みんなの時間を無駄にしてごめん」


俺は神妙な表情のみんなに謝った。そこには本当は隠し事をしている事への謝罪の気持ちもあった。


「ま、仕方ねーさ。気を取り直して、俺たちに出来ることをやろーぜ」


こういう時の大ちゃんの明るさは本当に助かる。


「俺たちに出来る事って?」


ワッキーが尋ねると、大ちゃんは浦田さんを指して言った。


「俺たちに出来ることは、良い作品を生むことだろ?」


浦田さんは脇目も振らず黙々と執筆を続けていた。


「大ちゃんは今、どんなの作ってるんだ?」


「ようやく俺と組む気になってくれたのかー?」


「いや、そうじゃないけど……俺に出来ることがあれば手伝わせてくれよ」


時間を奪ってしまった罪滅ぼしという訳でもないが、誰かの役に立ちたかった。


「いやあー実は全然ストーリーが思い付かなくて悩んでたんだよ、こころはなんか良いネタねーか?」


「そうだな……今日地獄に行ったみたいな経験してきて思ったんだけど、悪魔みたいなやつでも悪くないやつもいるのかな? って思ったんだ」


「なるほど、地獄に住む良い悪魔の物語か。良くありそうだが面白いテーマだな」


「最初から悪い奴って、あんまりいなくて、育った環境のせいみたいなところあるだろ?」


「まあ悪いやつばっかりの中で育ったら価値観は違ってくるよなー。例えば俺が核の炎に包まれた後の世界に生まれたら汚物は消毒するかもしれねーな」


「モヒカンは似合わなそうだけどな。そういや何で漫画家目指してるんだっけ?」


「決まってるだろ」


「決まってるのか?」


「まず、漫画家になるだろ?」


「まあ、なったとしよう」


「売れたらアニメ化するだろ?」


「売れたらするかもなあ」


「アニメには声優が必要で、漫画家の要望を聞いてくれるんだ」


「聞くだけは聞いてくれるだろうな」


「つまりそういうことだ」


「そういうことか」


好きな声優がいて、その人に会う為。夢を追う理由なんて、些細なきっかけなのかもしれないな。


「悪魔が地獄で活躍するような漫画じゃ野太い地の底から響くような声ばっかりだろ?」


「どうかな? 女神とか天女とか出せば良いんじゃないか?」


「人間が良いなー俺は」


「声は人間だろ」


「主人公の悪魔は女の子にしようぜ、女の悪魔だっているだろ?」


「ビッチ臭がする」


「それはダメだ」


「前に描いてるって言ってた不良漫画どうなったのよ?」


「ある日、突然不思議な力に目覚めた不良が活躍する話しなんだけどよ、力がコントロール出来なくて自分から牢屋に入るところから始まるのよ」


「その不思議な力で人を傷付けない為に牢屋に入るのか? 不良じゃねーじゃん良い奴じゃん」


「主人公だから悪い奴じゃあねぇのよ、そしたら不良って意味がわからなくなっちまってよ、やれやれだぜ」


大ちゃんと話しをしながら、俺は頭の隅で物語を構築していた。そして大ちゃんも、同じように話しをしながら、ノートに頭に浮かんだキャラクターをラクガキしている。


そんなラクガキの中で、可愛い赤ん坊に角と羽が付いているキャラクターがあった。


「そのキャラは?」


「ん? 悪魔の赤ちゃん」


「もし産まれてきた赤ん坊に角と羽があったら、どうするんだろうな」


「悪魔の子だ! 殺せ! ってなるんじゃねえかな」


「穏やかじゃないなあ、でも自分達の子供だろ? 親は守るよな」


「俺がパパだったら、自分の子じゃねえって思うかもな」


「そんな悲しい浮気物語は嫌だな、じゃあ顔は思いっきり父親に似せればいい」


「我輩は悪魔の子孫だったのかグハハハハ」


「今まで気付かなかったのかよ」


「じゃあ逆に、ごめんなさいあなた、黙ってたけど、あたしのお父さん魔王なの」


「打ち明けるタイミング間違ってるだろ」


「まあまあ落ち着いてください」


「誰お前」


「悪魔の赤ちゃん」


「確かに魔王の子供だっていうんなら喋れるかもな」


人間界に生まれた悪魔の子供。どこかで聞いたような設定だが、俺の中で少しずつストーリーが膨らんでいく。


「なあこころ……やっぱ俺たちは一緒にやった方がいいって!」


「言いたいことは良くわかる。でも今じゃない。いつか俺たちがそれぞれに夢を叶えて、別の機会に一緒にやれる時が来たら、その時は一緒にやろう」


「なんで今はダメなんだよ」


「今回の作品は協力するけど、どうしても俺は、ひとりで面白い物語が作れるっていう自信が欲しい。そうしないと、いつか大ちゃんの足を引っ張ってしまったり、甘えてしまったりしてしまう気がするんだ。俺のワガママで悪いけど、お互いに支え合わなくても立てる男になった時に改めて組みたい」


「真面目か!」


「別の言い方をすれば、俺が小説家になったとき、大ちゃんが漫画家になって無かったら、組めないって事だからな。途中で挫折するなよ」

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