第13話 こころは混乱している

バレた。消される。死ぬ。終わり。


目の前が真っ白になり不吉なワードばかりが浮かんでくる。


「圏外っていうのはカマをかけてみただけなんですがね、その様子だとやはり繋がって無かったみたいですね」


「え?」


「先ほど言っていた梅田さんて方はドリーマーズラウンジの経営者ですよね」


「はい……」


「不思議ですねえ、そこの借金は先日完済したばかりのハズなんですが」


「え?」


もう何がなんだかわからない。


「ま、とにかくうちにはもう大賀はいませんから、お引き取り願いましょうか。その大賀って人から連絡があったら教えていただけますか? 二度とウチの名を騙れないようにお仕置きしなきゃならないんでね」


そう言われて事務所を追い出された俺は、近くの公園のベンチで落ち着きを取り戻すまで数時間動けなかった。


竹田の立ち寄りそうな場所へ向かった仲間たちから続々と手応えの無い連絡が入ってくる。


結局なんの進展も無く、ただイタズラにみんなの時間を奪ってしまった。


やはり俺には過ぎた事、人にはそれぞれ相応の器というものがある。俺に合っている器は、隅っこでザリガニのように静かに暮らすことなんだ。


帰ろう、穏やかな普通の日常に。


そう思いながら顔をあげると、大賀の運転する車に佐々木と竹田の似顔絵に似た男を乗せた車が公園沿いの道路を走っていくのが目に入った。


「あれは……大賀の事は知らないと言っていたはずじゃ……」


独自の情報網で捕らえたのか、それとも大賀を知らないというのは嘘だったのか。


どちらにせよ徒歩で車に追い付くことは難しいし、仮に追い付いて直接問い詰めたところで本当の事を言うとは限らない。


結局のところ、俺にできることなど何も無いのだ。


本当にそうか?


このまま引き下がるしかないのか?


そうじゃない。


まだだ、まだ終わってない。


俺にしか出来ないことが、あるはずだ。


俺だからこそ出来ることは、物語を紡ぐことだ。どの登場人物が状況によってどう動くか想像して、あらゆるパターンを想像する。


その中に必ず真実があるはずだ。


竹田さんは、あの日借金の返済に行った。佐々木もドリーマーズラウンジの借金は完済したと言っていた。


もし金を持って逃げたのなら、姿をくらますのは当たり前だが、大賀からも逃げるハズだ。一緒にいたのだから、金を持って逃げたのでは無い。


金を持って逃げたところを大賀に捕まった、という可能性もあるが、逃げている事がバレて捕まったのであれば竹田の身が無事というのはおかしい。


だとすれば、竹田さんは金を持って逃げたのでは無いだろう。


もちろん大ちゃんが見かけたのは捕まったばかりで、そのあと危険な目にあったという可能性も無くはないが。


逃げていない。と仮定すると、借金は返済されている事になる。


だとすると、なぜ竹田さんは姿をくらましたのか。


そもそも借金の返済が完了しているのに、なぜ大賀が取り立てに来たのか。


俺は再び事務所前に戻ってきていた。


入り口には変わらず雅人と呼ばれていた男が番犬のように周囲を睨み付けている。


いや、もしかするとそういう顔なのかもしれない。極度の近眼なのかもしれない。


「すいません、ちょっといいですか?」


俺が声を掛けると、さっきと同じように顔を近づけて睨んだあと「おお、オメーか」と答えた。


「視力……悪いんですか?」


「あ? 測ったことねーから知らねーよ! まあ……良くはねーかな。で、何の用だテメーぶっ殺されてーのか!? あ!?」


なるほど、どうやらこれがデフォらしい。


「大賀さんを見かけたら連絡しろって言われたんですが、さっそく見かけたので、ご報告に参りました」


「あ? 兄貴なら、さっき佐々木さんと一緒に出掛けたぜ?」


計画通り!


コイツならウッカリ口を滑らすと思っていた。


「兄貴……ってのは大賀さんの事ですよね、カッコいい方ですよねー」


「おう、俺もいつか兄貴みてーなビッグな男になりてーもんだぜ」


キラキラと目を輝かせながら遠くを見つめている姿は、まるで子供が夢を語るようで、少し可愛く見えた。


俺が小説家になりたいと願うのも同じように子供が描く夢のようなものなのだろうか。


ひとまず欲しかった情報を聞き出せた俺は「合流できたのでしたら連絡は不要でしたね、では失礼します」と、未来の立派な自分を想像しているのであろう雅人を置いて、逃げるようにその場を去った。


はっきりとした答えは、まだわからない。だが、わかったこともある。


やはり大賀と佐々木は繋がっていた。


もしかすると、借金の返済に来た竹田さんを言いくるめてウメさんに完済したことを知らせないようにし、2重に借金を詐取しようとしているのでは無いだろうか。


仮にそうだとしても、皆には内緒にしておかなければ。俺が気付いたことを大賀達に気付かれたくない。


このまま良いように操られてたまるもんか、どうにかして出し抜いてやるんだ。


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