第10話 迷探偵ココロ
浦田さんの作品は、俺の書いたあらすじみたいな短編小説よりも、数段上のレベルで完成されていた。
自分の未熟さが恥ずかしかった。
「どうかな?」
浦田さんが感想を求めて上目使いに見つめてくる。腐女子が見たらフラグが立ったと歓喜するかもしれないが、あいにく俺は悔しさでそれどころじゃない。
「すみません、今の僕には浦田さんの作品をどうこう言えるレベルにありません」
「つまらなかった……かな?」
「いえ! 面白かったです! 何て言うか、俺の作品と違って、しっかりまとまってて完成されてました」
「それはよかった。僕はこういう短いお話をたくさん書くのが好きなんだ。書くことが全てと言っても良い。書いていなけりゃ僕は生きている意味が無いんだ。たぶん君は違うよね、君は長編の方が楽しくかけるんじゃないかな。僕がたくさんの人が住めるアパートやマンションの経営者だと例えるなら君は一軒家とかお城を建てるタイプなんだよ。君だったら、僕のこの作品をどうするかな?」
浦田さんは意味ありげに言ったが、真意は理解できなかった。
「そうですね……次々と死者が増えていく現象に疑問を持った刑事とか出して死神の目的を阻止する為に闘うお話にでもするんじゃないですかね……」
「おー、こころ! もう来てたのか、早いな」
ドリーマーズラウンジの扉を開けて、俺を見つけるなり、人の気持ちなんてどこ吹く風で声をかけてくる。不知火大介とは、そういう男だ。
「おい無視すんなよ、どうしたこころ」
そう、こいつは俺が浦田さんの作品を読んで、自分が書いた作品が短編小説とは呼べない代物だと気付いて落ち込んでいても、お構い無しにグイグイ入ってくる。
こいつに空気を読めという方が無茶な話だ。俺の方こそ状況や雰囲気から推察して行動しなければならない。
俺は観念して暇をもて余した神々のようにもったいつけて振り向いた。
「何でもないよ大ちゃん。相変わらず元気だな」
俺が返事をすると大ちゃんは、まるで飼い主が帰ってきた嬉しさで千切れんばかりに尻尾を振る犬みたいで、思わず嬉ションしてるんじゃないかと心配になって視線を落とした。
安心した。開いてはいるが濡れてない。
「聞いてくれよ、さっきおかしな光景を目にしたんだ」
「なんだよ」
「借金取りのスーツの男が竹田さんと一緒にいるのを見たんだよ」
「だれソレ」
「アレだよ、こないだここに来た大賀って奴だよ」
「そっちは知ってる、竹のほう」
「ああ、そっちか。ウメさんの共同経営者だった竹田だよ」
「金もって逃げたやつか!」
会ったこともない竹田に対して怒りが沸き起こるのを感じた。
「大輔くん、それは本当かい?」
ウメさんがカウンターから出てきて大ちゃんに詰め寄った。
金を持ち逃げして姿をくらましていた裏切り者が借金取りと内通しているかもしれないという現実を目の当たりにして、ワナワナと震えている。
「ウメさん……信じたくないかもしれないけど、間違いないと思います」
「そうか……」
俺はガックリと崩れ落ちるウメさんを見るのが辛かった。こんなに優しい人を裏切るだなんて、竹田って奴だけは絶対に許せない。
ウメさんが涙ながらに立ち上がって言う。
「良かった……生きているんだね……無事ならそれで良い……。本当に良かった」
「え?」
俺の考えに反してウメさんがそう言うので、思わず声が出た。
「ウメさん、怒ってないんですか?」
「何を言うんだいこころくん、僕は彼が持ち逃げしたとは思っていない。何か理由があったんだと思っているよ」
ウメさんは人が良すぎる。どんな理由があったにせよ、金を持ち逃げして許されるなんてあってはならないことだ。
「わかりましたウメさん。真実はいつもひとつ! どうして竹田が店の金を持ち逃げしたのか。どうして竹田が大賀と一緒にいたのか。この謎は俺たちが解いて見せます!」
「そ、そうかい? じゃあ君達に任せるよ。でも危ない事はしないでおくれよ」
心配そうな表情で見つめるウメさんの横で、大ちゃんが新しいおもちゃを与えられた赤ん坊のように目をキラキラさせて言った。
まるで「冒険のにおいがする」とでも言いたげにこれから訪れるであろう展開に期待している。
なぜ?
リアリティの為である。
面白い作品を作る為に面白そうな問題には首を突っ込む。それが大ちゃんの行動指針であり、生きるエネルギーなのだ。
そんな大ちゃんに振り回されて、稀有な経験に巻き込まれることが、俺は嫌いじゃなかった。
「ところで大ちゃん、開いてるよ」
「えっ?」
大ちゃんが出入口のドアを確認して不思議そうな表情を俺に向ける。
「そっちじゃなくて、下のほう」
「あっ、サンキューこころ」
大ちゃんが気付いてズボンのチャックを閉める。腐女子がどう思っても、憎めない大ちゃんの性格が、俺は嫌いじゃない。
ウメさんを共に助ける仲間である脇野勝俊ことワッキーと、市川
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