第9話 『行列のできる占い師』
友人の佐藤から数年ぶりに呼び出された高木は、タチの悪い冗談を伝えられて顔を曇らせた。
「笑えない冗談だな」
「冗談じゃなく、俺の命は来週いっぱいだって告げられたんだよ」
「医者がそう言ったのか?」
「いいや、占い師」
「はあ!? 占い師!? それを信じて俺を呼び出したのかよ」
「そうだ」
「マジかよ……呆れて何も言えねーな」
「お前には、死ぬ前に会っておきたかったんだ」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけどよ」
親友の言葉に表情を緩めながらも、死を告げた占い師が腹立たしく思い高木は聞いた
「ったく。どこの占い師だよ」
佐藤に占い師の場所を聞いた翌日、高木は文句のひとつでも言いたくなり、直接会いに行くことにした。
その場所はトンネル横の道沿いにあり、紫色のテーブルクロスが掛けられた小さな机と、その上に水晶玉が置いてあるだけの場所だった。
幸か不幸か高木以外に客は無く、着いて早々怪しい黒装束の占い師と直接対決となった。
「アンタ俺の友達に来週死ぬって言ったらしいな!」
「来週と言いますと佐藤さんですね」
「占いってのは、人の生き死にに関して明言しないのが暗黙のルールなんじゃないのかよ! 俺はそういう卑怯なやり方が大っ嫌いなんだよ!」
「そうですか。ですが本当ですよ。それと占いではありません」
「何言ったって無駄なのはわかってたけどよ、文句のひとつでも言いたかっただけだ」
「あなたも見てあげましょうか? 高木さん」
「けっこうだ!」
高木は吐き捨てるように言うとその場をあとにした。
翌週、佐藤が他界した。
葬式では占い師の話題が上がっていた。
「佐藤のやつ死ぬこと分かってたんだってな」
「生きているうちに色々やりたかったこと済ませたらしいぜ」
「だからあんなに安らかな顔なんだな」
葬式が落ち着いて、高木は再度占い師の元を訪れた。
占ってもらいたくて訪れた訳ではない、ただこのまま黙っていられなかった。
相も変わらず占い師はそこにいた。
以前と違うのは、順番待ちの列が数人出来ていることくらいか。
壁や仕切りが無いため、占い師の声が高木にも聞こえてくる。
「そうですね、最近忙しいので来月くらいには迎えが来るでしょう」
「やっぱりそうですか。昇進したばかりで忙しく働きすぎていたって事ですかね……ありがとうございました」
淡々とした口調で死の宣告をする占い師と、どこか開き直った調子で去っていく客。
次々と躊躇いもなく死期について語っていく占い師を目の当たりにして、高木は吐き気を堪えられなかった。
客足が遠退くのを待ってから、高木は占い師と対面した。
「おや、高木さん。そろそろ来るころかと思ってましたよ。顔色が悪いですね、大丈夫ですか?」
「あんたの言った通り、佐藤は死んだよ」
「そうですか」
「あんた何なんだよ! そんな事して楽しいのかよ」
「いやあ、仕事ですから」
「し、仕事だからって! そんな死神みたいなマネしなくたっていいだろう! もっと別の占いだって出来るんじゃないのか!?」
「いえ、私は占い師ではないので」
「じゃあ何なんだよ!」
そう言うと、袖口から封筒を取り出して机に置いた。
「なんだよこれは」
「高木さんが来ると思って用意しておきました。あなたの知りたいことが書いてあると思います。ただし、これを読んだ時にあなたは死ぬでしょう」
それだけ告げると、机も水晶玉もそのままに、占い師は呆然とする高木を置いてトンネルの奥に消えていった。
高木は封筒を開けられなかった。
月日が流れ、雑誌やなんかの特集記事で死期が分かる占い師として紹介されているのを目にした。
通勤中の電車などでも何度か、よく当たる占い師の話題としても耳にした。
ある日のテレビ番組では、行列のできる占い師として紹介されたりもしていた。
「え、マジですか。いま流行りの占い師ですよね」
酒の席だった。
酔っていたこともあり、ついあの占い師との出来事を話してしまった。
「じゃあまだ開けてないんですか? 封筒」
「ああ、俺はあの占い師を絶対に許さない。その事を忘れないように肌身離さずな」
高木はそう言うと胸の内ポケットに入っている封筒を見せた。
「高木さんが見たら死ぬって言われたんですよね? じゃあ俺が見るぶんには大丈夫なんじゃないですか?」
「別に占い師の言ったことを信じて開けてないわけじゃないんだよ」
言うが早いかそいつは封筒を開けてしまった。
「お、おい」
「なんだこれ、何も書いてないですよ?」
そこには高木にしか見えない文字でこう書かれていた。
「私の正体は死神です。死期が近い人を迎えにいくのが面倒だったので、来てもらうことにしたのがきっかけで、あの場所で死を宣告していました。お陰さまで死ぬ予定の無い人まで来てしまって大忙しです。行列を作ってまで死の宣告を受けに来るんですから、人間とは不思議な生き物ですね」
背後に気配を感じて振り向くと、黒装束に身を包んだあの占い師が迎えに来ていた。
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