第7話 『パイレーツ・オブ・コスモポリタン』

空はあいにくの曇り空。


造船所の煙突からは、雲と同じ色の煙がモクモクと出ている。


そこで黙々と作業をしているのは、造船所の親方ボヤージである。


ボヤージが振るう匠の技を少しでも盗もうと熱い視線を向けるのは、息子のルビィだ。


ルビィ「宇宙海賊王に、俺はなる!」


カンタン「出たよ、いつもの夢物語」


造船所で働いているカンタンが、ルビィを冷やかした。


ルビィ「なんだよ、俺は本気だぞ! 夢ってのは口にすることで実現するんだ。俺は宇宙海賊王に絶対なる!」


カンタン「いつどうやってなるつもりなんだ? 言ってみろ」


ルビィ「 親父から宇宙船作りの腕を盗み出したら自分で宇宙船を作って宇宙に出るんだ!」


カンタン「カーッハッハッハ、まともに溶接も出来ねーやつがよく言うぜ。親方、言わせといていいんですか? 親方の技術を盗むとか言ってますぜ?」


ボヤージ「やれよ。おもいっきりやれ。進むべき道を見つけたんだったら一心不乱に突き進め」


ルビィは誇らしげに胸を張り、今はまだ見えぬ広い宇宙を見据え、曇天を見上げた。


すると、今にも雨が降りだしそうな灰色の空に、黒い影がゆっくり落下しているのが見えた。


ルビィ「なんだぁ? あれは……人か!?」


カンタン「アニメじゃあるめぇし人なんか降ってくるかよ! 余計なことに首突っ込むなって」


ルビィ「冒険のにおいがする!」


造船所を出たルビィは、黒い影の落下地点に急いだ。


ルビィ「女の子だ……パラシュートも無いのに、なんであんなにゆっくりなんだ……?」


女の子は、ルビィが到着する頃には村の外れの小高い丘に倒れていた。


ルビィ「おい! 大丈夫か!」


女の子「う……ん……んん……はっ!」


ルビィが揺さぶると女の子は目を覚まし、自分のショルダーバッグを覗き込むと、リンゴのような赤い実を確認した。


女の子「良かった、傷ひとつ付いてないわ」


ルビィ「俺はルビィ。やあ無事で良かった、空から女の子が降ってくるなんてビックリしたよ」


女の子「アタシはトーコ。ワケあって追われてるの。この辺で身を隠せる場所は無いかしら?」


ルビィ「だったら俺の働いてる造船所に来たらいいよ、みんないい人だからきっと力になってくれる」


トーコ「ダメよ! アタシと関わったら迷惑をかけるわ。一人で身を隠せる場所は無い?」


謎の声「みつけましたよトーコさん。私に恥をかかせないでください」


トーコ「オーガ! アンタだけは絶対に許さない!」


オーガ「私が何をしたというんです。いつまでも子供みたいに駄々をこねるのはやめて、国民の為にも私と結婚式をあげましょう」


ルビィ「なんだオメェ結婚すんのか? おめでとう」


トーコ「ちょっと黙ってて!」


トーコはショルダーバッグから書類を取り出すと、オーガに向かってつきつけた。


トーコ「アンタが母さんを殺ってきたことは、全部マルっとすべてお見通しだ!」


オーガ「おやおや、良く調べあげたもんだ。でもまあ、私のトリックについては黙っているのが得策でしょうね。それを言ったところで誰も喜ばない。民のためを思えば、私に従うことが最善なんです」


トーコ「待った! 民のためなんて嘘っぱちよ! アンタが狙ってるのはコレでしょ!」


そう言ってショルダーバッグから先程のリンゴのような赤い実を出して、この紋所が目に入らぬかした。


オーガ「そぉれだぁ! やはりお前が持っていたのか! 命が欲しければそれをよこせえ」


ルビィ「異義あり!」


目の色を変えて襲いくるオーガの前にルビィは立ちはだかった。


トーコ&オーガ「関係ない奴(人)はひっこんでろ(て)!」


ルビィ「へへ、いーこと思い付いちゃったもんね」


二人に怒鳴られたが、ルビィは不適な笑みを浮かべて赤い実を奪いとった。


トーコ「何するのよ! 返して!」


オーガ「小僧、そいつをよこせ!」


ルビィ「アンタの狙いはコイツなんだろ? つまりコイツがなくなったらアンタの目的は無くなるって事だ」


ゴクリ


そうしてルビィはリンゴのような赤い実を一飲みしてしまった。


崩れ落ちるようにへたりこむトーコを全く意に介さず、オーガはどこかへ連絡を取りながら去っていった。


オーガ「私だ。すぐに迎えをよこしてくれ。いや、交渉は決裂した。ああ、例の準備を頼む」


ルビィはオーガが離れていくのを確認してからトーコにかけよった。


ルビィ「上手くいったな、アイツ帰っていったぞ」


トーコ「何も上手くなんていってないわ。終わりよ……この星ごと消すつもりだわ」


ルビィ「どういうことだ?」


トーコ「アイツは、必要なくなったものは消し去る男。アイツの通ったあとには星屑も残らない」


カンタン「ルビィ大変だ! この星に向けて高濃縮のエネルギー反応を感知した! 出航の準備を急げ」


トーコ「どういうこと? アンタたち何者なの?」


ルビィ「とにかく細かい話はあとだ。俺達の宇宙船に招待するよ」


ルビィが造船所に戻る頃には、造船所は綺麗に折り畳まれ、宇宙船内に格納されていた。


ボヤージ「野郎共ー! 出航だー!」

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