第5話 帰路①
時間もだいぶ過ぎていたため、景佑たちは帰路についた。
駅前の道の角を曲がって歓楽街に入り、さらにもう一本脇へ逸れるとすっかり田舎染みた光景が広がっていた。時代の最先端を突き進む八幡学園都市といえども、中心から離れてしまえばまだそこここに昭和の香りが残っている。民家の合間に伸びる電柱だらけの細道を縫うようにしてADカー(自動運転車)が排気ガスも出さずに走り抜けていく。夕日を浴びた八幡学園の下町は未来と過去の入り混じる複雑な様子を見せていた。
「あーあー。今日ももう終わりかー」
千里はみたらし団子を片手にそう呟いた。
今どきだんごを買い食いする女子高生がどれだけいるかは分からないが、きっとかなり希少だろう。彼女の隣りでコロッケをぱくついている景佑もいるので、ひょっとしたらこういう文化も八幡学園都市の下町のように根強く残り続けるものなのかも知れない。
「ねえねえ、一口ちょうだい」
「イ・ヤ・だ! お前は一口で半分くらい食っちまうだろ」
「一口は一口じゃん。嘘は言ってないよ。ねぇ、いいでしょ?」
みたらし団子を持ったまますり寄ってこようとした千里から、景佑は慌てて離れた。
まだきれいな制服を、みたらしの甘い汁で汚されてはかなわない。
「いいわけないだろ! お前は自分のだんごを食って満足してろ!」
「ムッ! 私はそんなに安い女じゃないよ!」
「コロッケだって安いわボケ! ――って、ああ! こッ、かッ、勝手に食いやがったなコイツ! しかもほとんど全部! だぁぁぁあああ! 俺の下校時の楽しみがぁあああ!」
欠片ほどしか残っていないコロッケを片手に景佑は叫んだ。
自分でも言っていた通り、値段にすれば百円玉でおつりが返ってくるような安いものだが、夕日を浴びながら齧って悦に浸る楽しみが目の前で奪われたとあっては怒りも大きくなる。景佑は仕返しとばかりにみたらし団子を取り上げた。
「あっ、ずるい! 返してよ!」
「うるせえ! お前も俺の悲しみを味わってみろ!」
「復讐は憎しみしか生み出さないよ! そんな悲しい鎖を紡いじゃいけない!」
「どこかで聞いたような台詞を言うな! 無駄に壮大な話にすりゃ誤魔化せるってもんじゃないんだぞ! コロッケの恨みは!」
「小さい男だねぇ……」
「そっ、それはお互い様だろッ!」
しばらく二人でぎゃあぎゃあ騒ぎ合っていると、千里がふと動きを止めて道の先に目を向けた。
「何だろう。アレ」
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