第5話二人はいらない

『発表は二つある。どっちが先に聞きたい?』


『洋画でありがちな、いいニュースと悪いニュースってやつです? 吹き替えでもやってきたんですか?』


 そう言われてみると、よくある言い回しかもしれない。


『二つともいいニュースかな? あたし的には悪い話じゃない』


『そうですか。では、どちらが先でも構いません。どうせ二つとも聞くことには変わりないので』


『可愛くないやつだなぁ……』


『そうですか? 一般紙に巻頭グラビアが載るくらいですので、それなりだとは思うのですが』


『いや、そういう意味じゃないから……』


『はい……?』


 姉御の言いたいことがわからないのか、不思議そうな咏ノ原さん。


 この人は臆面もなく自分の評価を言っちゃうけど、何故だかナルシズムを感じない。どこか客観的というか。自慢するニュアンスや喜んでいる感じが一切なくて、ただ淡々と事実を告げているって感じで。もしかしたらそれが、ナルシストではなく、空気が読めない人と評される原因なのかもしれない。


『一つ目。番組に新しいスポンサーがついた』


『それは初耳ですね。なんていう会社ですか?』


『大和田学院ってとこ。ほら、専門学校の』


『ああ、結構な大手じゃないですか。相当手広くやっているみたいです』


 その名前は私も聞いたことがある。パンフレットをもらったこともあるし。確か、ゆりかご作りから墓場作りまであるくらい学科が盛り沢山なのがウリだったような。


『まぁ、スポンサーが増えても私たちのギャラは変わらないと思いますけどね』


『ばーか。制作費が増えればロケと称して好きなところに遊びに行けるんだな、これが』


『ラジオを何本も抱えている己己己さんのマイレージが、やたらと貯まっているのはそういうことだったんですね。勉強になります』


『そういうのオフレコで言ってくんないかな……事務所に怒られるから』


 とか言いつつ、編集でカットしない辺りこの番組は流石だ。咏ノ原さんが住所をぶっ放しそうになってもほぼ編集なかったし……いったいこのラジオのNGはどこにあるのだろう。


『んで。二つ目。新しい子が入る』


『新しい……?』


『そ。早速今日からね』


『つまり……クビということですね』


『いや、そういうわけじゃなくてさ』


『己己己さん……今までご苦労様でした』


『何であたしがクビになる感じなんだよ!?』


 凄まじいレスポンスでツッコミを入れる姉御。本当に咏ノ原さんの発言は恐ろしい。悪意がなさそうなところがさらに恐ろしい……。


『新しい子つっても裏方で、それも、ずっとやるわけじゃないけどな』


『そうなんです?』


『三ヶ月とか四ヶ月でどんどん別の子に変わるみたい』


『……ひょっとしてインターンみたいなものですか?』


『ご名答。ま、ぶっちゃけるとスポンサー枠みたいなもんさ』


『そうですか。私は別にスポンサー枠だろうと何であろうと構いません。不具合が起きなければ、という条件付きですが』


『手厳しいねぇ。そんなこと言われたら今日から一緒にやる子も萎縮しちゃうよ? あんたより年は上だけど、業界ではあんたの方が一年先輩なんだから、可愛がってやんな』


『先輩後輩……よくわかりませんね。部活に入っていたことがないので』


『中学のときも?』


『はい』


 あー、そうかも。咏ノ原さんて部活とか似合わない。


『私と己己己さんみたいな関係と捉えてよろしいのでしょうか?』


『え? あたしと清恵みたいな……?』


『はい』


『……こんな捻くれた後輩がもう一人ってこと?』


『先ほどは素直だって言ってませんでした?』


『……やだなぁ。こんなの二人は……やだなぁ』


『私はどうでもいいですけどね』


 流石の姉御も、斜めに真っ直ぐ過ぎる人間を相手にするのは一人が限度なのかな。リスナーとしても遠慮願いたいけど。

 そういう意味でも、咏ノ原さんはオンリーワンの立ち位置を築いていた。

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