第7話初回放送⑦
その後も意識的な毒舌と無意識な毒舌の噛み合っているのか噛み合ってないのかよくわからない会話が続き、一時間が過ぎようとしていた。
『お、そろそろ時間か』
『そうですね、もう十分録れたでしょうし』
『だからそういうの新人が言っちゃダメだっての! まったく……清恵はどうだった? 一回目の感想』
『……あっという間でしたね。己己己さんは?』
『あたしはあんたのせいでヒヤヒヤしっぱなしだったよ……多分、普段あたしとラジオ組む奴はこんな気持ちなんだろうなぁ。何となくわかった』
『よかったですね』
『よくはねぇよ!? ……あんた、このあと時間ある?』
『どうしてです?』
『一回目のあとだからね。スタッフとかみんなで決起集会でもしようかと。プラス、反省会も兼ねてね』
『なるほど。今日は月曜日ですので予定は何もないですね。ご一緒させていただきます』
『おいちょっと待て! 何、サラッと収録曜日バラしてんの? 放送すんの土曜だからね?』
『大丈夫です。土曜日と月曜日は二日しか違いませんから』
『何が大丈夫なの!? というかそれ土曜から月曜だろ? 月曜から土曜だったら五日も違うじゃねぇか!』
『大丈夫ですよ、同じ週ですし』
『だから何が!? ねぇ、どういうことなの!?』
『……己己己さん。さっさと終わらせましょうよ。私、十五歳なので、あまり遅い時間まではお付き合い出来ないんですから』
『何であたしが無理矢理引き延ばしてるみたいになってんの!?』
『番組のホームページからメールの投稿が出来ますので、皆様の暖かいお言葉をお待ちしております』
『何勝手にシメに入ってんの!? ねぇ!?』
『[わたしと! あなたの?
『おい! 人の話聞いてる!?』
無視され続ける姉御に、咏ノ原さんはボソボソと小さな声で『ここ、己己己さんが名前言うところですよ』と促す。
『は? だからさ』
『大丈夫です大丈夫です』
『だから何が大丈夫なんだよ!? ああもう……ここまでのお相手は
『咏ノ原清恵でした。来週も……』
『『あなたに声をお届けします』』
ああだこうだと文句を言いながら、結局最後にはキッチリ声を揃える辺り姉御はプロだった。
ヘッドホンを机の上に置いて一息吐く。気づけば日付が変わり日曜日になっていた。咏ノ原さんが言っていた通り、私にとってもあっという間の一時間だった。
初対面の姉御にあそこまで物怖じしない人は初めてだった。姉御の傍若無人なキャラに多くの若手が萎縮して振り回されてしまうというのに。今日振り回していたのは明らかに姉御ではなく咏ノ原さんだ。
私としては姉御のぶっちゃけトークが聞きたくてラジオを追っかけているのだけど……フォローに回る姉御もそれはそれで新鮮なのでありかもしれない。
何より。私は咏ノ原清恵という子が気になり始めていた。自らを高く評価していることを臆面もなく話すが、その話し方は自信家のような話し方ではなく、あたかも当然のことを何気なく話しているかのように思えた。危ういほどの素直さを彼女から感じていた。知らないことなら下ネタだろうと食いついて尋ねてしまうみたいだし。
今の高校生ってもっと捻くれた性格をしていると思ってたんだけど。咏ノ原さんはどこまでも真っ直ぐに思えた。それもあらぬ方向に一直線。
声春ラジオ、か。来週も聞いてみようかな。
そう思いながら私はさっきまで放送されていたラジオのホームページをクリックした。番組へのメールを投稿する為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます