第2話初回放送②
『えー、というわけで本日から始まりました[わたしと!あなたの?声春ラジオ!?]、パーソナリティの己己己己己己己です』
『同じくパーソナリティの咏ノ原清恵です。よろしくお願いします』
『咏ノ原さんはうちの新人なんだよね?』
『はい。そうです』
『今いくつなの?』
『十五歳です』
『若っ。どういう経緯でうちの事務所に入ったの? 養成所から?』
『いえ。一応今は養成所に通ってますが、スカウトされたのは養成所に入る前です』
『スカウト? あ、何、元々タレントさんとかモデルさんでスカウトされてて、声優に転向したってこと?』
『違います。芸能活動をするのは声優が初めてです』
『ほんと? じゃ、ほんとにスカウトで入ったんだ……声優にスカウトされるってどんな状況? 普通に街歩いてて声優になりませんかなんて声かけられないでしょ』
『新宿のカラオケです』
『カラオケ……?』
『はい。一人でカラオケをしてたんです』
『ヒトカラって奴? あんたねぇ、友達とかいないの? 若いんだからさぁ』
『若いと一人でカラオケしちゃダメなんです?』
『え? うーん、ま、本人がいいんならいいか……で? 一人でカラオケをしてたら?』
『今、ブースの外からこっちを見ているマネージャーの青木さんが突然私の部屋に入ってきたんです。ベロンベロンの状態で』
『はぁ? 何それ、スカウトじゃなくてナンパじゃないの?』
『いえ、ナンパではなかったと思います。お酒臭かったですが』
『ふーん、なるほどね。あいつ、ナンパだったら社長にチクってやったのに……それで?』
『青木さんに言われたんです』
『何て?』
『可愛いねー、おじさんと一緒にカラオケしようよ、って言われました』
『結局ナンパじゃねぇか!』
『あとは流れで事務所に入ることになったんです』
『どんな流れだよ!? あれか!? 俺の女になれば声優にしてやるとか言ったのか青木!?』
『いえ、そうではありません。私、処女ですし』
『はい、出た出た! あんた、あれだよ? 下ネタを言えば面白いと思ったら大間違いだよ?』
やれやれとわざとらしく姉御は呆れて見せた。確かにラジオで下ネタに走るのはよくある傾向だ。そして姉御が言うと説得力がある。
『別に思ってはいませんが、
『あたしはいいんだよ。そういうのが求められてるんだから!』
『……ズルいですね。というか処女は下ネタなんですか? そもそもとして』
『え?』
咏ノ原さんの掲げた問いに、思わず姉御は素のリアクションを出してしまっていた。
『今の時代、処女厨なんて言葉があるように、男性が女性に処女性を求め、神聖視してたりするじゃないですか』
『まぁ、そうらしいな。どこのキリスト教徒だよって思うけど』
『それにこの業界、処女だとアピールする方が多いと思うんです』
『それはあれだろ? そっちの方がオタ受けがいいからだろ。夢を見させてんのさ』
『夢とは言いますが、果たして私たち声優が処女であることに夢はあるのでしょうか?』
『何言ってんのあんた……?』
『考えてみて下さい。ファンの多くはあわよくば私たちと付き合いたいと思っているわけです。告白したらまず断らないはずです』
『うーん……まぁ、そう、なのかな。全員が全員ではないと思うけど』
『だとしたら私たちが処女だと公言することはあわよくばの夢を壊すことになると思うんです。処女はお堅いイメージですから。むしろ誰とでも付き合うビッチだと公言した方が、もしかしたら付き合えるかもと夢を見る人が増えるのではないかと』
『……わからなくもないけど、すごいこと言ってるな』
『大体、三十も過ぎて彼氏がいなかったりする方が夢がないと思うんです。行かず後家というわけではありませんが、ファンの方も夢どころか逆に心配してしまうんじゃないでしょうか』
『……だよね。三十過ぎて流石にそれはねー……』
それまで他人事のように呆れながら聞いていた姉御の声がかすかに震える。年齢ネタは後輩声優が軽々しく扱えないほど姉御の弱点だった。知ってか知らずか、咏ノ原さんは気づいている素振りを見せずに的確に傷口を広げる。
『結婚していることを隠しているとかならともかくですけど』
『……ねー……』
『ところで己己己さんはお付き合いされている方いるんです?』
『へぁ!? あ、あたし!? い、いるさ、いるに決まってるじゃん! 一杯いる! 五人くらい? もう取っ替え引っ替えだよ!』
『ですよね。流石己己己さんです。夢があります』
『う、うん……』
姉御、見栄張ってるなぁ。免疫なさすぎてファンに心配されてるくらい男が苦手なのに。
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