第1話初回放送①

『はぁ……始まっちゃったかぁ』


『何でいきなりため息を吐いてるんです、己己己きなこさん?』


 新しい番組は陰鬱なため息と淡々とした声で始まった。


『そりゃため息も出るわ……どうしてあたしがこんな若い子とラジオをやんないといけないのさ』


『それは私と己己己さんが同じ事務所だからじゃないです? ついでに言うとマネージャーも同じですし』


『……うん。まぁそうだよ、その通りだよ? でもそういうの言っちゃダメでしょ、裏話的な』


『そうなんです? でも社長が、今年は全面的に私を推していくから何も包み隠すことなくその個性を発揮してくれ、って言っていましたよ?』


『……うん、だからそういうの。そういうのダメでしょ、言っちゃ。今あれなんだから。ちょっと何か言ったら、すぐステマだの枕だの言われるんだから』


『ステマではなくないです? 全然ステルスしていないですし』


『そうだけど! そうだけどダメだって! これ絶対後であたしが社長に怒られるから! ちょっとくらいステルスして、むしろ!』


『そうですか。わかりました』


『はぁ……頼むよ、ほんと』


『どうしたんです? ため息なんて』


『いや、そりゃ出るでしょ……これだからドル売りのキャピキャピした子は嫌いなんだよねぇ』


『ドル売りはそうだと思いますけど、私、キャピキャピしてます?』


 咏ノ原うたのはらさんの声はあくまで淡々としていて他意はなく、不思議と純粋さを感じさせた。


『……あんまり』


『そうですよね』


『……はぁ。えー、それではタイトルコール行きますか。記念すべき一回目。聞いてる人、何て番組かわかってないだろうし』


『言う順番は己己己さん、次に私、最後は一緒にですよね?』


『そーそーそー。んじゃ、行くよ?』


『了解です』


『……わたしと!』


『あなたの?』


『『声春せいしゅんラジオ!?』』


 二人が息を合わせてタイトルを告げると軽快な音楽が流れ始めた。声春ラジオ、か。青春とかけているのかな。


 しかし。何だったんだ今のオープニングトークは……姉御押されてたなぁ。というか咏ノ原さん、歳のわりに落ち着いてるけど何かおかしいよこの子?

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