第5章 まさにどろヌマ(前編)
第34話 ハートフル()ストーリー
「うーん……まあ、こんなもんか」
ベッドに腰掛け、上目遣いをし、スマホで自撮り棒を使って撮影した写真を見て俺は一人頷いた。
そして早速撮った写真の色調をアプリで多少いじり、インスタグラムで公開。
ツイッターとも連動させてそちらでも公開する。
『+プレアデス+ @PleiadesStar
今日のコーデは最近はまってる漫画のヒロインなイメージ
#今日の+プレアデス+ #どろヌマ #マチルダ #手作りアクセ #どろヌマコーデ』
今回俺が公開したコーディネートのポイントは、特徴的なバレッタと、マントを思わせるフードつきのショールだろう。
ちなみに、ショールはメルティードールの新作で、バレッタは現在連載中のウェブ漫画、どろヌマに登場するヒロイン、マチルダが胸元に付けているブローチとリボンを真似て俺が自作したものだ。
マチルダは俺の弟、優司が連載しているウェブ漫画『どろどろスライム、ヌメヌメボディでマチルダを狙う』通称どろヌマのヒロインだ。
どろヌマは連載開始と共にすぐにネット上で話題になり、連載開始から三ヶ月経った現在では、常に人気ランキング上位に名を連ねる人気作品になっている。
連載開始当初から+プレアデス+アカウントで最新話を読む度にツイッターで感想を呟いたり、衣装もすごく可愛いと連載一ヶ月でマチルダコスをして写真をツイッターで流したりしたりと、密かに応援していた俺としてもとても嬉しい。
どろヌマは元々ピクシブで優司が連載し人気だった作品が元なので、前作からのファンでした! と言えば、不思議がられる事も無かった。
優司からマチルダのモデルは朝倉すばると聞いた時は流石に驚いたし、思うところが無い訳でもないが、せっかく弟が小さい頃からの夢を叶えようとしているのだから、応援したいというのが人情だ。
元の俺、鈴村将晴は友達も少ない冴えないただの大学生なので、応援しようにもできる事は少ない。
しかし、人気コスプレイヤーであり、メルティードールのモデルやタレントとして活躍する+プレアデス+なら話は違う。
なので俺は、積極的に+プレアデス+としてどろヌマを宣伝している。
基本的に俺はツイッターはコスプレ等やアニメやゲーム等、ヲタ全開だが、インスタグラムでは、美咲さんから言われたメルティードールの服を使った毎日のコーディネートや一般向けの可愛くて女の子らしい写真しか掲載していない。
世間的にかなり認知されてきているものの、コスプレ自体に抵抗のある人もいるからだ。
その甲斐もあってか、最近ではツイッターのフォロワーではない、完全にインスタグラムだけのフォロワーも着実に増えてきている。
ヲタ全開のツイッターとは別の、純粋にメルティードールの服が好きな女の子が見てくれたりしているようだ。
そこで、なんとかその辺の層にもどろヌマへの導線を用意できないだろうかと考えたのが今回の作戦だ。
今回公開した写真は、どろヌマのヒロイン、マチルダをイメージしたコーディネートだが、配色や小物を似せる位で、あくまで普段着られるカジュアルなものまで落とし込んでいる。
このコーディネートを見て、良いなと思ってくれた人がその流れでどろヌマにも興味を持ってくれることを期待しての事だ。
ちなみに、今回で七回目となるこのシリーズは、最近ではこのマチルダをイメージしたファッションを真似た写真をSNSで公開する子も増えてきて、中々に好調だ。
どろヌマは設定だけだと、森に一人で住む魔女マチルダに拾われたスライムが、彼女に様々なセクハラやら無体を働こうとする話なのだが、内容はいたって健全で、むしろほのぼのしているので、女の子にも安心して薦められる。
主に互いに言葉が通じない、種族間での感覚や常識の差異、ヒロインのマチルダが聖人過ぎる等の理由で、スライムが下種、互いに自分が主人だと思っている等の問題を完全にぶん投げたまま進む、すれ違いハートフル()ストーリーだ。
特に、スライムがマチルダを手篭めにしようとするも、基本無性生殖で条件が揃えば勝手に増えるスライムに性交などという概念は無く、結局ただマチルダを撫で回して彼女の肩こりが解消されただけだった話は、今思い出しても顔がニヤけてしまう。
身近な漫画を読みそうな人間として、稲葉と中島かすみにもどろヌマを薦めてみたが、中々に好評だった。
しずくちゃんと須田さんはもう知っていて、互いに作品の感想を語り合って楽しい時間を過ごした。
メイクを落として部屋着に着替えてベッドに寝転がり一息つけば、横でスマホで通知の音がひっきりなしに鳴り出す。
中々に好評なようだと思いつつ、しばらくベッドの上でごろごろしていると、突然俺のスマホの着信音が鳴り出して驚いた。
画面を見れば優司からだ。
タイムリーだな、なんて思いつつ、通話ボタンをスワイプする。
「よう優司、久しぶりだな」
「兄さん、実は相談があるんだけど……」
できるだけ明るく電話に出れば、沈んだ優司の声が聞こえてきた。
「お、おう、どうした?」
何か重要な話なのかと、俺は寝転がっていた身体を起し、恐る恐る優司に尋ねる。
「実は僕、すばるさんに告白しようと思うんだ……」
「へ?」
突然すばるに告白するだなんだと言い出した優司に、俺は咄嗟に間抜けな声しか返せなかった。
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