第35話 超優良物件
「それで、どうやったらうまくいくか、兄さんに相談したいんだけど」
「待て、なんでいきなりそうなってるんだ……」
しごく真面目な様子で話を続けようとする優司に、慌てて俺は待ったをかけた。
本当に、なんでそんな事になっているというのだろうか。
「僕、もう随分とすばるさんと会ってないし、優奈みたいに二人きりで遊びになんて誘えないし……」
「まあそうだろうが、何でじゃあ告白しようになるんだよ、色々飛ばしすぎだろ」
相変わらず、優司の話はいきなり結論から始まってどうしてそうなったかが全く見えてこない。
とにかく、ここは地道になんでそうなったかを聞いていく事にする。
話はそれからだ。
「今もたまにすばるさんと連絡は取り合ってるんだけど、このままだとすばるさんと距離を縮めるどころか、疎遠になっていっちゃうような気がして……」
そういえば、優奈は頻繁にすばるをデートに誘ってくるが、優司は優奈と一緒の時以外は自分からすばるを遊びに誘ったりはしてこない。
恐らくは好きな人を前に二人きりだと、どう接して良いのかわからないのだと思う。
しかし、それなら仮に相手がすばる以外の女の人だとして、付き合うことになったとしても、デートにも誘えない。
一緒にいても緊張して、何をして良いのかわからない状態で、何をする気なのだろうか。
「だからって、いきなり距離縮めようとしすぎだろ……それで断られたらお互い気まずくなって、更に距離が開くかもしれないだろ」
呆れながら俺は優司に言う。
「でも、全く望みがない訳じゃないと思うんだ」
「どうしてそう思った」
おい待て、最近疎遠になってきてるって自分で言っておいて、どうしてそうなるのかと思わず俺はつっこんだ。
「すばるさん、どろヌマの更新する度に感想をツイッターで呟いてくれたり、SNSで色々宣伝して熱心に応援してくれてるんだ」
どうやら優司は+プレアデス+が熱心にどろヌマを宣伝していた事で、脈ありなんじゃないかと考えたようだ。
ツイッターで+プレアデス+と優司は相互フォローになっているので、ミュートにしていない限りは+プレアデス+の宣伝も、連動したインスタグラムの写真も流れてくる。
俺の発言にはほぼ毎回、優奈と一緒にいいねとリツイートをしてくれていたので特に深く考えていなかったが、実は色々と夢と妄想が広がっていたようだ。
「それは……純粋にどろヌマを面白いと思っているからっていうのと、知り合いが夢を叶えられそうな所まで来てるなら応援したいとか、そういうことじゃないか?」
俺は、できるだけ優司を傷つけないようやんわりと事実を伝える。
「そうかもだけど、それをしてくれるって事は、少なくとも僕の事を好意的に見てくれてるって事だと思うんだ」
優司は真剣だ。
「いや、そりゃそうだけども……」
俺はどう返していいか、わからなくなった。
確かに、俺は優司の事は好きだし、夢を叶えて欲しいと応援もしているが、そこに恋愛的な感情は無い。
相手がすばるでなければ、優司の恋も諸手を挙げて応援したいところではあるが……。
「まさか、もうすばるさんに新しい彼氏ができたとか……?」
「え」
言いよどむ俺の沈黙をどう取ったのか、急に優司が焦ったような声になる。
そうか、ここでそういう事にしてしまえば、とりあえず優司も諦めがつくかも知れない。
「なら、僕は、もう……死ぬしか」
「なんでそうなる!? どろヌマも人気が出てきてこれからだろ!」
慌てて俺がつっこみを入れる。
冗談だと思いたいが、優司の声のトーンが重過ぎて冗談に聞こえない。
「だって、どろヌマはすばるさんの事を考えて描いた話なんだ。すばるさんの事を考えると楽しくて、幸せな気分になって、いくらでも話が思いつくけど、もう恋人がいるならそんな事ダメだろうし……漫画が描けない僕なんて……」
「いないから! まだいないから!」
優司の予想外な思いつめっぷりに、慌てて俺はすばるに恋人がいるという話を否定した。
ダメだ、優司は今、これからの人生を大きく左右する大事な時期に来ている。
下手に心を乱して今後の優司の人生を台無しになんてできない。
「そっか、良かった……でも、だったら早くすばるさんに告白しないと」
優司は少し落ち着いたようだったが、すばるに告白しようという意思は変わらないらしい。
「こ、告白しても上手くいくとは限らないだろ……」
「でも、そうでもしないと、なにもしないまますばるさんを他の人に取られちゃう、それは優奈かもしれないし、僕の知らないすばるさんの知り合いかもしれない……すばるさんみたいな人がずっとフリーなはず無いじゃないか。時間が無いんだ」
なんとか優司を思いとどまらせようとするも、優司の中ではすっかり魅力的な人物になっている朝倉すばる。
彼女は、他からも引く手
あながち間違いとも言い切れない辺りがつらい。
つらすぎる。
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