第6話 他に誰がいるの?
会場についた時、特にしずくちゃんらしい影は見あたらなかった。
稲葉は更衣室へ着替えに行き、俺は上着だけさっさと着替えて今回製作した肩鎧を装着する。
髪は元々黒髪を後ろ一本に結んでいるキャラなので、家からセットしてきてそのままだ。
優奈とも無事合流できた。
「あっ、すばるさ~ん!」
俺を見つけて手を振るなり、笑顔で駆け寄ってくる優奈にうっかり顔がにやけてしまう。
「稲葉さんもお久しぶりです、というか、滅茶苦茶クオリティ高いですね!? 一瞬、誰かと思いましたよ!」
優奈は俺の目の前までやってくるなり、稲葉に視線を移して、心底驚いたように声を上げた。
「久しぶり、優奈ちゃん。そう言ってもらえると嬉しいな」
はにかむように稲葉は笑う。
俺達の心配を
高校時代に友人として稲葉を家に泊めたりしていたからだろうか。
一真さんの時とはエラい違いだ。
「確か稲葉さんって、お兄ちゃんとは中学時代からの付き合いで仲が良いんですよね」
優奈はニコニコしながら稲葉の元へ寄っていく。
「ああ、将晴には、その、色々と世話になってるよ……」
やめろ、そわそわしながら口ごもるな、変な意味に聞こえるだろ! と、俺は心の中でつっこむ。
「じゃあ、お兄ちゃんの恋人がどんな人かわかりますよね! どんな人ですか?」
「え」
対して優奈は稲葉の返答を聞くなり、では本題だと言わんばかりに成り行き上、現在いる事になっている俺の彼女についての話になった。
思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
「だってお兄ちゃん、私が聞いてもいつも適当に話をはぐらかすばかりであんまり教えてくれないんです。その人も中学からお兄ちゃんと仲良かったらしいですし、その人の事、稲葉さんなら知ってますよね?」
優奈の言葉を聞くなり、おい恋人ってなんだそれ、と稲葉が俺の方を見てくるが、思わず俺は視線を逸らしてしまう。
「……優奈ちゃんは、どこまで話を聞いているのかな?」
その俺の反応に何かを察したのか、稲葉は優奈に俺の恋人の事を尋ねる。
どうしよう、ものすごくこの場から逃げ出したい。
「確か、中学からの付き合いだったんだけど、恋人になったのは最近で、歳の離れた元婚約者がストーカーになって困ってるのを助けたのがきっかけで付き合うようになったとか」
ニコニコしながら優奈が説明する。
「……なあすばる、その将晴の恋人は、去年の秋頃そういう事になった、俺の考えてる人物でいいんだよな?」
平静を装ってはいるが、若干焦った様子で稲葉が俺に尋ねる。
ポーカーフェイス下手すぎだろお前、と思いつつ、ここで俺までうろたえるのはよろしくない。
俺は落ち着いている風を装いながら、ちょっと拗ねたフリをした。
「やあね、他に誰がいるの?」
ちょっと不機嫌そうに言いながら、むくれてみせる。
以前、今話題に上がっている空想上の俺の恋人に、密かに思いを寄せていた相手を掻っ攫われた乙女の反応としては、これで間違ってはいないはずだ。
どんどん嘘に嘘が重なっていく。
このままでは自分の重ねた嘘でいつか圧死してしまいそうだ。
「それで、その人はどんな人なんですか? すばるさんに聞いても話をはぐらかされるばっかりで……もしかして、何か訳アリとか?」
俺の反応を見たせいか、優奈はますます興味津々、といった様子で稲葉に詰め寄る。
もしかして、今回優奈があっさり稲葉の同行を認めたのは、この事を稲葉に聞くためだったのかもしれない。
嫌な汗が俺の頬を伝った。
「まあ、訳アリではあるな」
「家庭環境が複雑とか?」
「複雑……あながち間違ってはいないかもしれないけど」
渋い顔をして少しためらいながら答える稲葉を、優奈はぐいぐい質問を続ける。
「元婚約者がストーカーになるなんて、ものすごい美人だったり……」
「う、うーん、どうだろう……」
稲葉も自分を想定してぼかしながら質問に答えていたが、流石にこの優奈の質問には答えづらかったらしく、どう答えたものかと言葉に詰まっているようだった。
「でも、背も高いし、顔もそこそこ良いわよね」
俺は稲葉をまじまじと見ながら答える。
恥ずかしかったらしく、今度は稲葉がそっぽを向いてしまった。
「あの、その恋人ってもしかして……」
優奈がそう言いかけた時だった。
「すいません、写真撮らせてもらってもいいでしょうか」
若い女の子の声がして、いつもの癖で俺は
「はい、大丈夫ですよ~」
なんて条件反射で答えてしまった。
声が聞こえた方を振り向けば、笑顔でどす黒いオーラを
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