第4話 そういうの汚いと思います!

「……ということがあったんだ」

「もう朝倉すばるとして生きたらいいんじゃないか?」

「やめろ」


 すばるの家に稲葉を招き、先日の出来事を話しつつ、稲葉に頼まれていた衣装や装備を合わせる。


 ついにイベントは明日だ。


「というか、本当に俺はついて行って大丈夫なのか?」

 既に稲葉にも今回優奈が一緒にイベントに参加する事は伝えてあるが、嫌がられないか心配らしい。


「優奈に話したら大丈夫って言ってたし、ただの友達だって強調しておいたから大丈夫だろ」

「だといいけど……」

「むしろ他に人がいた方が変な空気にならなくていい」


 鏡の前に立たせた稲葉に、装備を着けたりウィッグを着けたりしながら話す。

「というか将晴お前、モデルの仕事とか大丈夫なのか? 姉ちゃんがえらく張り切ってるみたいなんだが」

「まあ、雑誌の取材とか広告の撮影とかは入ったりするけど、来シーズンのメルティードールの写真はもう一通り撮ってあるから、今のところ忙しさ的にはそうでもない」


 今度出演する予定のバラエティ番組のコーナーは、一応事前にどんなものか知るために予約録画をしているが、今回のコスプレの準備やらなんやらで結局まだ見ていない。


 春休み中とはいえ、なんだかんだで多忙な日々ではあるが、メルティードールのイメージモデルをする事になった時、まとまった額の契約金を貰ったので、バイトはしないでも今のところやっていけている。


 給与の支払い関係は全部一宮が上手く手配してくれていた。

 敵にしたら怖いが味方にしたら心強い奴だ。


 ホントなんでこんな事になってるんだろな……なんて俺がぼやいているうちに稲葉のウィッグのセットは完了した。

「おお……すげぇ」

 姿見を見ながら稲葉が感嘆の声を漏らす。


 今の稲葉は日サロで肌を小麦色に焼き、腕にコスプレするキャラ用の龍のタトゥーシールが貼られている。

 髪もウィッグでいつもとは違う髪形になり、ぱっと見では稲葉とわからない。


 俺はコスプレ衣装に身を包んだ稲葉を見て思った。

 我ながら中々のクオリティである。


 稲葉がコスプレしているキャラは、学ランみたいな形の服を着たキャラだ。

 衣装部分はは稲葉の高校時代の学ランをそのまま使っていいと言われたので随分楽だった。

 元々稲葉は背も高くスラッとしていることもあり、様になってる。


 稲葉も気に入ったらしく、妙に鏡の前でそわそわしている。


「せっかくだし、なんかそれっぽいポーズとってみたらいいんじゃないか?」

「そ、そうだな!」

 声をかけてみれば、稲葉は妙に嬉しそうな顔になった。


「明日は俺が写真撮ってやるから、今のうちによさ気なポーズ考えておくと良いかもな」

 加えて俺が言えば、それもそうだなと、稲葉はウキウキした様子で答えた。


 きっと、いつもとは違う自分の姿が楽しいのだろう。


 俺もよく衣装が完成して試しに着てみたときなどはテンションが上がって、よく一人で色んなポーズをとってしまうのでよくわかる。


「こうやって見ると、暗めの髪も中々良いかもしれないな……」

 鏡を見ながら稲葉がぼそりと呟いた。


 +プレアデス+のツイッターは最近大学の知り合いも見ているからと、コスプレするにあたって、今回のコスプレの写真は俺のツイッターでは公開しないで欲しいと稲葉には言われた。


 しかし、一方でせっかくコスプレしたのだから、ツイッターで公開しないにしても、写真は沢山撮ろうと提案してみれば、案外ノリノリで了承してきた辺り、なんだかんだで楽しんでいるようである。

 やはり、身近に同じ趣味を共有できる相手がいると、普段一人でやっているのとは別の楽しさがある。


 今日は稲葉が泊まりという事もあり、修学旅行のような、ワクワク感もある。

 前回、稲葉が泊まりに来た時はただただ疲れていたのであんまり覚えていない。


 明日のイベントはすばるの家で準備をしてから会場に向かう事になっている。

 俺は更衣室に入れないので、先に稲葉のウィッグ等を俺が手伝ってセットしてから行くためだ。


 優奈とは現地集合だ。


 衣装はどれも満足いく物が作れたし、明日のイベントが楽しみだと俺はほくそ笑んだ。



 その日の夜、一真さんからすばるの携帯に電話があった。


 突然、明日俺が優奈と稲葉と三人でコスプレ参加するイベントの名前が出てきて、このイベントに参加する予定なのか、と尋ねられた。


 素直にそうだと答えれば、その手の情報をSNS等で発信するのはもう少し慎重になった方が良いと言われた。

 俺は首を傾げた。


 なぜなら、以前はイベントに参加するたびにイベント名と日時を添えてブログやツイッターでその事を告知していたが、


メルティードールのCMに出演して騒がれてからは、そんな事はしていない。


 せいぜい今製作しているコスプレアイテムの画像を上げたりしてる位だ。

 それだってどの作品のどのキャラクターの装備を作った、位にしか書いていない。

 その辺はフォロワーの人に尋ねられてもあえてぼかしてきた。


 優奈は別口で、たまたま俺が稲葉と参加する予定のイベントに今度コスプレ参加するので、もし参加する予定があればその時に会えないかと誘ってきたので、そのまま稲葉も含めて一緒に参加する事になった。


「どうして参加するイベントまで特定できるんですか」

「僕は詳しくないのでよくわかりませんが、直近で開催されるその作品のコスプレができるイベントや、過去の参加しているイベントの傾向等で大体絞り込めるそうですよ」


 どうやらしずくちゃんサイドには最近、情報分析に優れた重度のヲタクが新たに加入したらしい。

「でも、友人同士で場所を借りるとかして仲間内だけで楽しむ事だってあるじゃないですか」

「ああ、そうなんですか? その辺は知りませんが、さっきすばるさんにも確認取れましたし、そのイベント用なのでしょう?」


 どうも納得できずに更に一真さんに食い下がってみれば、そもそもそれを確認するための電話だった事がわかり、俺は地団太を踏んだ。


「そういうの汚いと思います!」

「はて、汚いとは? 僕はただすばるさんに忠告しただけですよ」

 思わず俺が文句を言えば、しれっと一真さんはそれを受け流す。


「……しずくちゃんが、また何かしようとしてるんですか?」

「みたいですよ、今回僕は専門外なので話を聞いていただけですが」

 やっぱりか、それが俺の感想だった。


「がんばってくださいね」

「……お礼なんて言わないですからね!」

 驚く程うすっぺらい激励を受け、イラッとしつつ俺は電話を切る。


 通話を切った後、勢いでベッドにスマホを投げつけ、ちょうど風呂から上がって何事かと首を傾げる稲葉に半ば八つ当たりのようにキレながら俺は事情を説明した。

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