第33話 向こう側のリリィ

 録画した歌番組を観ながら、ため息。

 ああ、やっぱり私って、ぜんぜんダメだ。


 私の名前は日向利里子、16歳。リリィって芸名で、絶賛アイドル活動中。

 最近はファンも増えてきて、テレビの出演も増えてきたんだけど……。

 ため息。

 収録中は精いっぱい頑張ってるつもりなんだけど、こうやって後から見ると、ダメなところばっかり見えてくる。

 音程が不安定だなーとか、笑顔が何だか作りものっぽいとか。トークだって、もっとうまくしゃべらないと。

「ダンスもなぁ、キレがもっと……」

 部屋の中でステップをおさらいしていると、「利里子、何してるの?」とお母さんの声。

「何でもない!」

 ダンススタジオと違って、一階に音が響いちゃうんだよなぁ。

 あーあ、早くレッスンに行きたい。


 今の日本にアイドルはいっぱいいる。私よりかわいい子だって、歌のうまい子だって、いっぱいいる。

 もっともっと頑張って、ナンバーワンアイドル目指さなきゃ!

 気合いを入れ直して、再生を一度止めて、飲み物を取りに行こうと部屋から出る。

 リビングの方からお母さんがお客さんと話してる声が聞こえた。


「ええ、ええ。そうなんです。まだ学校には行きたくないみたいで。でも最近、好きなアイドルができたみたいで、雑誌を買うために外に出るようになったんですよ。もうそれだけで、少しは良くなったんじゃないかって。いえ、女の子のアイドルです。そうそう、その子。今若い子に人気みたいですね。利里子も熱心に応援してます。名前が似てるからですかね。まるで自分のことみたいに」

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