第29話 愛されっ子

 ユイはみんなのアイドル。

 男の子も女の子も大人の人たちも、みんなユイのことが好きなの。

 だってユイは、世界で一番かわいいから。

 みんながそう言ってるんだよ?

 ユイがいるだけでみんな幸せなの。

 だからユイがやりたくないことは、誰かが代わりにやってくれる。


「ユイちゃんはそんなことしなくていいよ」

「僕らが代わりにやってあげる」


 ユイは勉強大っ嫌い。

 だから宿題はほかの子にやってもらうんだ。

「ユイちゃんは宿題なんかしなくていいよ」


 ユイ、スポーツもきらーい。

 運動会は、涼しいところでおしゃべりしながら見てるだけ。

「ユイちゃんは走ったりしなくていいよ」


 学校に行くのは、パパが車で送ってくれる。

 ほんとはダメなんだけど、ユイは特別。

 でもね、それもだんだん嫌になっちゃったから。

 だから今は、学校行ってないの。

「ユイちゃんは学校なんか行かなくていいよ」


 それで毎日おうちにいて、おいしいもの食べて。

 欲しいものは誰かが買ってきてくれるから、どこにも行かなくていいの。


 あーあ、これもめんどくさい。

「ユイちゃんは何もしなくていいよ」

 それもめんどくさい。

「私が代わりにやってあげる」


 だからユイは、なんにもしなくていいの。

 おでかけなんて「そんなことしなくていいよ」

 何にも「代わりにやってあげる」


 だからユイは、みんなに愛されてるユイは……

 あれ、ユイは、何をすればいいんだろ。

 ユイは


「ユイちゃんは何も考えなくていいよ」

「僕らが代わりにやってあげる」

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