第22話 大好きなお父さん
お父さんはいつも怒っていた。
だけどそれは私の前でだけ。
外では優しいお父さん。
家に帰ると、私に怒る。
怒るお父さんは怖い。
カッと見開いた目が私を見ると、ごめんなさいしか言えなくなる。
ごめんなさい。ごめんなさい。悪い子でごめんなさい。
でも、私だけじゃなくて、お父さんもいいお父さんじゃなかったんだ。
いいお父さんはきっと、こんなにいつも怒っていない。
だけど私はお父さんが好きだった。 外での優しい顔とか、家での怒った顔とかじゃなくて、もっと内側の部分が好きなんだ。そんな気がしていた。
私はお父さんが好きだった。
お父さんにも私を好きになってほしかった。
だから。
……最初お父さんは怒っていた。いつものあの 顔で。大きな目が私を見る。私はごめんなさ いと言った。
……それからお父さんは悲しそうな顔をした。
あんまり見ない顔だった。何かお願いするみ たいに私を見た。
……その後は私を見なくなった。閉じかけた目 で下の方ばかりを見てた。初めて見る顔だっ た。
それから。
それから。
それから。
お父さんは少しずつ腐っていった。
あの怖かった目もそのうちなくなってしまった。
お父さんが崩れていって、そこから、白いものが姿を見せた。
その時私はようやく理解した。納得した。
そうか、そうだ、私はずっと、お父さんの内側の部分が好きだったんだ。
恐る恐る近付いて、ひどいにおいのするお父さんの中からそれを引っ張りだす。
お父さんの白い骨は、最高に恰好よく見え た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます