第10話 儲からない仕事

「金が無い」

「……そんな情けないこと、堂々と言われても」

「あーあ、世の中間違ってるよなぁ」

「っていうかさ、あんたって一流なんじゃなかったの?」

「一流だよ。一流も一流、超一流だ」

「その超一流のおっさんが何で金に困ってんのよ。仕事なんかいくらでも来るでしょ」

「そこなんだよ」

「?」

「いいか。凡人には、一流の凄さってのは理解できないもんなのさ」

「何それ」

「まぁ聞け。例えば、囲碁や将棋の頂上決戦を観戦したとする。お前はそこで何が起きているのか理解できるか?

 盤面を睨む二人が何を考え、何手先を読み合い、思考を巡らせているか……とてもじゃないが理解できないだろ?」

「まぁ……そうだね」

「同じことさ。一般人には、俺の仕事は理解できない。

 困ってる人間が俺のもとに依頼に来る。俺は依頼人と共に現場へ向かう。現着した瞬間に、俺の仕事は終了だ。解決まで秒もかからない。

 そんな超一流の仕事を、依頼人は信じないわけさ。何故かインチキ呼ばわりされる。

 だってのに、仰々しい魔法陣を描いて、怪しげな聖水やら何やらを並べて、三日三晩かけてようやく仕事を終える無能な人間は何十万とせしめてる」

「変なの」

「そう、変なんだよ。世の中間違ってる」

「……ふふっ」

「何だよ」

「ううん。なんか、おかしくて。あんたみたいな人とこんな話してさ。この状況が一番変かな」

「ま、そうかもな」

「そろそろ朝になるね」

「そうだな。……もう、いいか?」

「うん。ありがとう、付き合ってくれて」

「お安い御用だ。何せ俺は超一流だからな。心の余裕ってもんが違う」

「お金の余裕は無いけどね」

「言うな」


 東から徐々に、白み始めた空の下。男が手をかざすと、少女の体は光の粒と変わった。虚空へと溶ける彼女の魂を見送り、男は一人呟く。


「まったく、儲からねぇな、霊能者ってのは」

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