第52話 眠気
コンコン
ボーッとする頭の中で、あれはノックの音だ……誰か起こしに来たんだ。母さん? あー、そうだ、ここは……。
コンコン
「樹、起きた?」
ヒナタの声かな? まだ、ボーッとしている頭の中で考えてる。えーっと。
「樹?」
「ああ、起きてる。何?」
何かあったのか?
「博士が向こうに戻る準備終わったんで、向こうに行こうって」
「ああ、わかった」
俺は立ち上がってドアを開ける。
そこには少し元気のなさそうなヒナタがいた。あっちか……『樹』の死体はもうないだろうけど、戻るのはキツイことなんだろうな。
「また博士の研究室から移動だよ」
「そうか」
「レイナも博士ももう行ってるから」
「ああ」
ヒナタについて行って博士の研究室に入る。さっきの血だまりはそのままだった。そこまでは手が回らないんだろう。研究室にはまたあのエレベーターみたいなので移動するようだ。二人ともその前で何かを話している。
「ああ、来たね。じゃあ、行こうか」
みんなで装置の中に入る。博士の操作でまた一瞬フラッときて、移動したようだ。本当に違いがわからない。
「俺、寝てる間に汗かいたみたいで、シャワー浴びたいんだけど」
「次はご飯だから、シャワー終わったら来て。場所はあっちと同じだから」
ヒナタが次の当番か。
「わかった。あ、着替えは?」
「部屋のクローゼットに置いてあるよ」
「わかった」
今度は破壊せずに装置から出る。
すぐに部屋に向かい着替えを持ってシャワー室に入る。何の夢を見てたんだろう。思い出さない方がいいのかな……。
汗を流してさっぱりとする。着替えは元の俺の服だけが置いてあった。あれ? いろいろと買ったのにな。
シャワー室から出ていい匂いのするリビングに向かう。
リビングのドアを開けて中に入る。意外にもご飯は出来上がっていた。
「もう出来てるの?」
「あっちで下準備してたのを転送したから」
転送したって、準備中に移動かよ。博士ってばどれだけ自分のタイミングでやってるんだ。
「さあ、早く席に着いて!」
ヒナタの元気のなさはなくなりなんか逆に元気になってる。そういえばあの部屋、『樹』と戦ってた跡はどこにもなかった。だからだろうか……元気になったのは。
俺はもう三人が席についてる食卓につく。
「いただきます」
なんか食べて寝てばっかりだな。
「なあ。食べ終わったら繋ぐのか?」
「ああ、そう。そうだね」
全てが終わったんだ。繋いだら俺は帰るか。もうここには用がないんだもんな。あっちに帰って翔子に会う。想像できない。
レイナ達も帰るんだよな。博士は……。ここか、ここが博士の居場所なのか。なんか異常なこの状態にすっかり慣れてたな。
「レイナもヒナタも帰るんだよな?」
「う、うん。そうだね」
「なんか変だね」
「そうだね」
レイナとヒナタはぎこちなく会話をしている。二人ともこの状態にすっかり慣れてしまったんだろう。戻る、帰るなんてこと考えられないのかもしれない。別れの時なんだな。食べ終わって博士が繋いだら俺もここを去るんだよな。なんか変だな。やっぱり。
ん? なんだか、眠い……眠くなってきた。食事中になんでだ? ね、眠い………。
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