第46話 目の前にいたのは
扉の向こうにあったのは……。嘘だろ。これこそ……嘘だって言ってくれよ!
そこにあったのは草介博士の研究室そのままだった。
「な、なんで?」
俺の声に反応してそこにいた、ただ一人の人物が顔を上げた。
草介博士、その人だった。
「は、博士?」
俺はすっかり声が裏返るほど驚いている。なのに、博士は物珍しそうに俺を見ていた。
「おや? おかしいね? 生きている人間は転送されないはずなんだが……、どこかに不具合でもあったのかな?」
生きている人間……転送……。俺は転送されたのか。あの時後ろから心臓を刺されて……一度死んだんだ。心臓が回復するまでの間に死んだ人間だとみなされて転送されたんだ。さっきの部屋に。
「博士……草介博士なのか?」
なんでここにいるんだ? ここは……奴らの居場所だろ?
まさか……研究室とここは繋がってるとか……そんな馬鹿なことないよな?
「ん? なぜ私の事を君が知っているんだ?」
博士はしばらく考えている様子だった。俺はどうすればいいのか、どう考えればいいのか、全くわからない状態になっていた。まさか博士が……。なんでなんだ?
「そう! そうか! あちらの僕だったんだな。どうりで上手くいかないはずだ。リーダーはあの少年ではなく僕だったのか」
「え……?」
リーダーは僕だった……この世界とは違う俺の世界と繋げて攻撃してきた……博士の研究室……洋館にいかにもありそうな部屋に、そして外が見えるはずがない窓にカーテン……。
「お前……違う世界から来たんだろう!」
「ああ、そうだよ」
博士はあっさりと答える。そこで思い出した博士の言葉。『祖父と僕は行方不明になっている』
ま、まさか、俺の世界の博士なのか?
「お前……じいさんと行方不明になるように仕組んでこの世界にきたのか?」
「じいさん? なんのことだか? 僕は僕の世界の人間という害虫を全て消し去ってからこちらに来たんだが」
人間全て? こいつは……俺の世界の博士じゃない。別の世界の博士だ。そして、その世界の人類を滅ぼしている。しかも、簡単にしたような口ぶりだ。
「どうやって……?」
「こちらと同じようにしただけだよ。ただし、僕の世界に僕は一人だけだった。だから、誰にも邪魔されなかった。死体が死体を呼んで、あっという間だったよ。ここの……君は見ただろうね、はじめに君がいたあの場所で死体に僕が作ったガスを浴びせる。そうしたら、蘇り人間を襲うようになるんだよ」
あのダクトはガスの為に設置されていたんだ。そして、蘇った……ゾンビがあの部屋に入れられるってことか。
「蘇った人間はさらに死体を増やしてくれる。生体反応がなくなった人間をあの部屋に転送するシステムに作り上げて、さらにガスを浴びせる。雪だるま式に死体が死体を呼んでくれたんだ」
「なんの為にだよ!」
「人間……人類はなにをしてきたと思う?
博士はなんのためらいもなくそう言い切った。でも!
「じゃあ、お前の世界の人類はいなくなったんだろ? なんでこっちにも……」
もう続きが言えない。
なんで他の世界にも来る必要があったんだよ!
「人類がいなくなった。さてこれからどうしようかと思っていたら、異世界にもね、行けるようになったんだ。そこも僕の住んでいた世界となんら変わりがなかったんだ。仕方ないよ。僕の世界で残っていた死体は全て処分していたからね。また死体集めから始まった」
その時はただの死体の盗難か紛失ぐらにしか考えられてなかったんだろう。事実、『樹』の襲撃後にも死体が消えても目撃されるまで不振には思われなかったんだから。世界中で起きた不思議な出来事は繋がれることなく処理されていたんだろう。
「こちらでもすぐに数を増やして行ったのに、ある時を境に一気に数は増えなくなった。そして、徐々に減り始めた。全く腹立たしかったよ。まさか、あの能力を持つモノと戦い、さらには勝つ人間が出てくるとは思わなかったからね」
モノ……こいつには人間はモノでしかないないのか……。
「そんな時に最初からこの戦闘に参加してる少年が送られて来たんだ。これで、徐々に減っていた兵隊の数は、徐々にではあるけれど増えていった。なのに!」
腹立たしそうに俺を見る博士。
「君はあの少年と同じだね。こっちの僕が違う世界の君を呼んだんだろうね。全く、そこから僕の兵隊は減少続きだよ。君が全滅させていたんだね」
言葉の柔らかさとは違い、睨みつけるような博士の視線。
「まあ、おかげでどこから来ているのか掴めたんだけどね。異世界とずっと繋いでおくなんてこちらの僕は迂闊だね」
さっきまでの雰囲気とは違って少し嬉しそうに博士は語る。きっとこちらの博士よりも自分の方が優れていると思ったんだろう。そんなチャチな自尊心。
「こっちの博士は人間を守っている。お前とは違う」
「ああ、違うね。なぜ守らなければいけないんだ? 君たちが命がけで戦っている間にこちらの人間は何をしていた? 誰も戦っていないじゃないか!?」
「……」
そう……そうなんだ。命がけで戦っている間に野球を観戦して、ショッピングに明け暮れ、普通に毎日を楽しんでいた。
でも!
「だから、って殺されてイイわけじゃない! お前の殺戮が認められるわけじゃないんだ!」
「わからないね。悪なんだよ。必要かどうかの問題ではない。有害だったんだ。だから、排除した。ただそれだけだよ」
排除って! 有害だって! いったいこいつはなんなんだ?
「お前だってその人間じゃないか? 神にでもなったつもりか?」
「言われなくてもわかっているよ。僕が人間だってことは。ただ、他の世界にも悪があるならば僕はやらなければいけないんだよ。今のところ人間がいる世界は十八世界見つけた。あと何個見つけるかはわからないけれど、僕は最後までやり遂げるよ。他の世界の僕や君に邪魔されてもね」
同じ人間であることが汚らわしいと思っているんだろうが。こっちこそ同じだと思って欲しくはない。
「俺を前にして逃れられると?」
俺は刀も銃も持っている。なんでこいつはこんなに余裕なんだ? 俺が博士が人間だから攻撃しないと思っているんだろうか?
「ああ、もちろん。手は打っているからね」
嬉しげに何かのリモコンのような物を俺に見せつけた。瞬間背後に気配を感じた。慌ててよけると銀色に光る物がチラリと見えた。すぐに振り返り見るとさっきみた部屋にいた奴らが開きっぱなしの扉からドンドンと中に入って来ている。あのリモコンのような物で呼びつけたんだろう。博士には攻撃しない。俺は攻撃をかわしつつ刀で切りつける。キリがない。せっかく治ったばっかりなのにあっという間に傷が増えて息も切れている。
敵の数は増えて行くばかりだ。
「俺は! お前の世界に俺はいなかったのか?」
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