第42話 死体
「敵が現れて死体を奪っているそうなんだ」
「は? でも、パネルには何も……」
「どうやら今までの奴らではないみたいなんだ。世界中に現れては殺した死体ではなくて、すでに死んでいる死体と一緒に消えているという報告を受けたんだ」
死体を奪っている……どういうことだ?
「誰も殺してないのか?」
「ああ、そうなんだ。だから世界各国で死体が消えるという事件としてしばらくは処理されていたんだ。単なるいたずらだろうと、誰も奴らとは関連付けなかったんだ。けれど、死体が消える瞬間に居合わせた人が偶然いてね。それで、わかったことなんだ」
「奴らは死体を集めてるってこと?」
「そうだね」
「兵隊を作ってるのね。もう手持ちの死体が失くなったから……」
ヒナタが俺と博士の会話の続きを静かに付け加える。兵隊……死体。やっぱり死体を使って、こちらを攻撃していたんだ。
「防ぐ方法は?」
「僕達にはできることはなにもないんだ。どうやら今動いている奴には探知機は反応しない。だから、各国で死体を監視してもらうしか方法がない」
「それじゃ……」
「死体を補充し終わった時に攻撃して来るんだと考えているが……それも本当のところはわからない。今までの時間では動いてはくれないかもしれない。いったい今後どうなるかは全くわからないんだ」
「……」
どう返事をしていいのかわからない。
あの総攻撃で今まで集めた死体を使い切ったって事か? だから『樹』だけで乗り込んできたのか? 死人の能力もそのまま使えるのかもしれない。『樹』は強かったから。翔子の死体を使わないのにも何か理由があるんだろうか? わからないことだらけだ。だけど、博士に聞いてみたところで答えが出るわけでもなさそうだ。
いったい俺たちはこれからどうなるんだろうか?
そのまま食事の用意も出来ていたので軽く温め直して食事をした。また時間を潰すだけの時間がやってきた。部屋に戻りパネルを見るが何も映らない。こうしている間にも死体は狙われているんだろう。いくら防いでも無駄な気がした。
世界の死体を見張るってどう考えてたって無理だろう。先進国や豊かな国は人手を割けるけれど、いくらなんでも世界中がとなると無理だろう。
となると、攻撃に十分な量の死体が手に入ったらまた攻撃してくるんだろう……どこを?
全く相手の行動が読めない。どうなるんだろうか、これから……。
ゲームに一層集中出来ないまま、長い時間を過ごしていた。翔子達はずっとそうだったんだよな。俺が呑気に家に帰り、眠り、学校に行っている間、ずっとこうやって敵の攻撃だけを待っていたんだ。いつ終わるともわからないこの戦いを、続けていたんだ。何の為に?
他の仲間がいた頃には封鎖はされていなかった。まだずっと自由だったんだ。それが仲間もいなくなりさらには封鎖して……そして、死んだはずの俺が来た。何も知らないままに。博士も酷なことをする。いくら『樹』という存在が重要でも。
今、もし俺の世界の翔子を仲間に入れると言われたら、俺はどうしていいのかわからなくなる。嬉しいと思う反面、違うんだと思って苦しむ。ヒナタも翔子もそうだったんだろう。そうまでしても、『樹』が必要だったんだ。
カウントダウンの機械を見る。その動きがまるでスロー再生のようだ。秒針があればゆっくりと動いて見えるんだろう。次の時間になってもこれが終わるわけじゃない。まるで永遠の時をカウントしてるかのようだ。
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