第37話 新しい家

 博士に全てを話したら、即刻移動することが決まった。俺は翔子のメガネを持って行きたいと訴えたが、追跡される恐れのあるからと博士に断られた。結局武器や装備なんかの戦闘に必要な物だけを持っての移動となった。移動といってもいつもの瞬間移動みたいな装置で一瞬だった。博士の部屋から一瞬で移動した。


「ここどこ?」


 周りはほとんど……一緒だ。博士の研究室そのものだし。プールもある。


「それは知らない方がいいだろう。どうせ地下なんだしね。今度は買い出しもしない。さあ、そこからは離れて!」


 俺たちはエレベーターみたいな装置から出て離れた。博士が何かを入力すると


 ボゥン


 鈍い音とわずかな煙を出してその装置は壊れたみたいだ。


「ここから追いかけて来れないようにね。それにしても異次元まで探知して移動もできるだなんてなんて……やはり宇宙人なのか……」


 ブツブツと博士の自論が繰り広げられてる。

 そして、いつもは元気な二人が大人しくしている。レイナは光はもう出てないがまだ刀を握りしめている。まるで手放せないかのように。そして、ヒナタはずっと呆然としている。涙は乾いたものの、ふとした拍子にいつでも涙がこぼれ出てきそうだ。俺は翔子のメガネの感触を握りしめたままだ。

 嫌な敵だった。あえて一人で『樹』を送りこんでくるなんて。それも翔子のメガネをかけさせて。


「じゃあ、そろそろ部屋に案内しよう。今日からここが僕たちの新しい家となる」


 博士の自論は終わったみたいだ。まだ茫然自失の俺たちを博士は気にするのをやめたようだ。どんどんとドアに向かって行く。俺たちはただ黙ってついて行く。

 新しい家か……もう二度と戻れないんだろうか。……この戦いが終わることができるのかすらわからないのに……戻る、戻れないじゃないな。まずは先に進まないといけないんだよな。出来るんだろうか。この世界で。翔子のいない世界で……。




 ドアの向こうも前と同じだった。さっきと変わってないと言われてもわからない。入れ替わっても気づかないだろう。


「同じだな」


 ボソッと呟いたのに博士には聞こえていたようだ。


「ああ、気にいってるんだ。この部屋がね」


 カーテンの向こう側にはやはり何もないんだよな。地下に窓とカーテン、いらない物をなぜ作るんだ。気にいってるんだか……。

 博士はいつも翔子達がいた部屋のドアに向かっている。今日から俺もそこに住むことになるんだろう。



 博士がドアを開ける。

 中に入ると……本当に玄関だな。そこには廊下があった。左右にドアが並んでいる。一番奥にもドアがある。マンションの一室の玄関みたいだ確かに。


「じゃあ、部屋は適当に自分達で選んでくれていいから。部屋は全部で八部屋あるから。一番手前のこっちがトイレでこっちがシャワー室だ。一番奥がキッチンとリビングになっている。まあ、どれも向こうと同じように好きに使ってくれたらいいから」


 博士が不動産屋に一瞬見えた。この作りは向こうとさして変わらないんだろう。俺のための説明なんだろうな。


「あと、食事は保存食でしばらくは、しのいでくれ」

「買い出ししなくてどうするんだ?」


 しばらくは保存食でやっていけるがいつまで戦うかわかってない。いつまでも蓄えてるものだけって訳にもいかないんじゃないのか?


「それは通信販売だよ。ネットショップでね」

「え?」


 買い出ししないで俺たちにも場所を言わないで厳重にこの場所を隠してる割に手軽にネットショップかよ。


「別の場所に届けてもらってそれをまたここに転送するから大丈夫だよ」

「本当かよ。転送で居場所がバレたんじゃないのかよ」

「異世界と繋いだことでバレたんだよ。だから、あそこに入るにはあのメガネじゃなければ入れなかった、そうだろう? あの時にはもうすでに異世界との繋がりを絶った後だったからだよ」


 そういえばそんなような事を『樹』も言っていたような。


「それならそれでいいんだけど……。ん? 今までは探知機を使って侵入されてなかったのか?」


 翔子が最初ではない。現に『樹』もそしてその前にもいたじゃないか。


「みんな死ぬ前に探知機を破壊して、放置してくれていたんだ。そうだったね。樹君は死ぬことがないから言ってなかったんだが破壊するスイッチが探知機にはあるんだよ。みんな死に際にそれを押してくれてたんだ。多分翔子君は間に合わなかったんだろう」


 ……


 聞くんじゃなかった。また思い出される記憶……。メガネの翔子が心配そうに俺を覗き込んでいる。そして、声をかけるんだ『樹、大丈夫?』って……。




 あちらからこちらへの移動手段はさっき博士が壊したエレベーターみたいなあれと博士の持っていた探知機に似た物だった。一つは壊れたし、もう一つは博士がもって来ている。もうここには来る事はできないはずだ。

 もう二度とあんなことは嫌だ。今度は……翔子が来るかもしれないんだ。俺はまだ戦える自信なんてない。ヒナタのように加勢出来るのかわからない。そんな状態でここで戦うなんて考えられない。


「じゃあ、まだ時間的にも次の攻撃が考えられる。樹君は横になった方がいいだろう。着替えもね。前と同じ位置の小部屋にスーツを移しておいたから。じゃあ僕は他の用事をしてくるから」


 博士は入ってきたドアから出て行った。

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