第36話 決断と絶句
俺たちはただ一人でここにやって来た『樹』を前に絶句した。
「やあ。次元の歪みが頻繁だったんでここを見つけることができたよ。やっとここまで来れた。ここへ移動する道具まで手に入って良かったよ。僕の仕事の邪魔ばかりされて困っていたんだ。この世界の悪が減らなくてね」
俺の口で俺の声でこんな喋り方されて気持ち悪い。そして、言っている意味が良くわからないが多分この世界の悪とは人類のことなんだろう。どういうことだ? 今までの奴らは一言も声を、悲鳴さえあげなかったのに。なぜ『樹』は喋るんだよ?
「お、おい! 喋ってるぞ! てか、『樹』ってこんな喋り方なのか?」
どうしてもそこが許せない。気持ち悪いんだよ! 目の前で自分が喋っていることよりも。
「ううん。違う。こんな喋り方じゃないし、雰囲気も違う。まるで別人だよ」
「そりゃあ、そうだよ。もうこの体は死んでいるからね。それより、死んでいて良かったよ。君とこの体は同じだよね? 別世界から出入りしてたのは君だったのか。お陰でここがわかったからよかったよ。全く僕の計画が進まなくって、どうやらリーダーだったこの体の持ち主を殺したはずなのに、まだしぶとく妨害され続けてね。ここ数日など全滅ばかり続いてるんで持っていた兵隊が減っていくんで焦っていたところだったよ。まさか、この体の持ち主を別世界から呼んでいたとはね。まあ、それもお終いだがね!」
長い話の後に突然の攻撃。来るとは思っていたけれどよけきれなかった。また、脇腹かよと思いつつ刀を抜く。ここでしかも相手は一人だけだ。銃の出番はない。
ブゥオン
レイナが覚悟を決めたようだ。刀を構えている。少し顔が引きつっている。相手が『樹』だからか、それとも刀を手にしたからか。
「ヒナタ! しっかりしなさい!」
え?
ヒナタは呆然と俺……『樹』を見ている。刀さえ手にしてない。
「ふふ。仲間を切れないのかい?」
「ヒナタ!」
無防備なヒナタに向かって行く『樹』を止めに行く。
ガキン!
ヒナタは寸前で『樹』の攻撃を後ろへと避けた。俺はその隙間に入って『樹』の銀色に輝く腕を刀で受け止める。
「クッ!」
今までのやつとは力が違う。グイグイと押されて行く。
フォン
ガキン!
レイナが加勢してくれた。
そこからはレイナと俺が『樹』に向かって刀を振り下ろす。ただし、相手は両腕の二刀流になる。これで、今まで散々やられてきた。
「ヒナタ! 頼む!」
今までのヒナタからは想像出来ない。縮こまってうずくまっている。どうしたんだ?……まさか『樹』が? 最初に俺と会った時の反応……そうだ、ヒナタは『樹』のことが好きだったんだ。だから、さっきも言い淀んでいたんだ。今まで『樹』が現れなかったから、いつかくると思っていても動けないでいるんだ。さっきの話にもヒナタは力が入ってなかった。そして、そのいつかは今、目の前に現れたんだ。
でも、俺とレイナ、二人ではかなわない。
「ヒナタ! 『樹』を悪者みたいにさせたままにしないでくれ! こんな気持ち悪い話方! 俺は嫌だ!」
ガキン!
フォン
ガツ!
「ヒナタ!」
レイナも叫ぶ。ヒナタ! 頼むよ。
「ヒ……」
「わかったわよ! 樹が『樹』の声でやれって、もう混乱するのよ! わかった!」
ブゥオン
ファン
二刀流対三刀になった。さすがに『樹』でも三対一だ。
ブシュ
ファン
ブシュ
俺の一振りが『樹』を切りつけた。すぐにレイナの刀も『樹』を切り裂く。
ファン
ガキン!
「え?」
「ヒナタもういい。やった。終わったんだ。とどめは俺がさす」
ヒナタの刀で『樹』を傷つけることはさせたくはなかった。レイナのように。
ブシュ
ドタッ
最後の俺の一刺しで『樹』は青色に染まった血だまりに倒れた。俺は『樹』がかけていたメガネを取る。これでこいつはここまで来たんだ。翔子のメガネで……。
ガチャ
「そろそろ準備が……」
奥の部屋から博士が出てきた。
翔子のメガネを持ってる俺、刀を持ってるレイナ、刀を落とし涙を流してるヒナタ、青色に染まった元ヒーローの『樹』の変わり果てた姿の死骸……博士が言葉を失ったのは誰の姿を見てなのか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます