第28話 嘘が下手

 朝日の中を制服に着替える。どんなに焦ったところで俺に残された時間はわずかだ。今は放課後から始まる戦闘の為に体力を残しておかないと。


 玄関を出たが、今日は翔子に会わないな。……なんで気にするんだろう。前は気にもとめなかった。週にどれだけ朝会っていたかも覚えてないくせに。


 学校でもつい目で探してしまう。ポニーテールの翔子を。なんでなんだろうか。


 ずっと見かけなかったのに、よりにもよって放課後に、翔子と会ってしまった。そうだよな。帰宅部同士、前から時々は会って一緒に帰ってたんだよな。クラスは違うから時々だけど。当然一緒に帰る事になる。一緒の方角どころか斜め前の家なんだから、行き先はほとんど一緒なんだから。


「どうしたの? 樹、今日はなんか用事でもあるの? 」


 俺の焦りをすぐに翔子に見抜かれた。


「いや、なんでもない」


 あ、用事があるって言えばよかった。俺って嘘がやっぱり下手だな。

 向こうの時間はどうなってるんだろう。戦いは始まったりはしてないんだろうか?

 向こうの世界の事が気になって翔子との会話も途切れ途切れだ。ヤバイ。翔子が怪しんでいる。博士の家がバレるのは困る。翔子とあっちの翔子が会うのはどうやらすごくまずいらしい。外出禁止なくらいだから、よっぽどのことだろう。

 なるべく自然になるべくいつもの俺で会話を続ける。翔子はどうやら何か勘違いしてるみたいにだ。ヒナタの事を気にしてる。しきりに会話に入れてきて俺の様子を探る。黒髪のポニーテールの話題ばかりしてくる。

 どうやらこれは、いったん家に帰って着替えて出かけるしかないみたいだな。制服のまま出かけるなんてこと俺は普段しないし。クソっ! 草介が本当にいれば便利だったのに。もちろんあの俺の幻覚の草介だ。いい口実になったのに。



「ただいま」

 と言って返事も聞かずに着替える。友達と遊びに行くとでも言おうか。どうせすぐに帰ってくるんだから。



「いってきます」

 玄関に母が現れた。

「どこ行くの? 」

「友達と……」

「そう。いってらっしゃい」

 詳しくはいらないらしい。男でよかった。そういやいつも何も言わずに出かけてた。必要以上に言い訳を考えてしまう。嘘つくのが下手なんだな俺って本当に。



 博士の家は近い。けれど、時間の流れがわからない。今はもう家戦闘終了後にいつも家に帰ってる時間だ。扉を開けて中に入る。今日は誰もいない。ヒナタも。ま、まさか。

 もう一枚の扉を開ける。そこには博士がいた。


「博士! あの時間は? 」

「あ? ああ。今日は着替えてるから家に帰ったんだね。今はまだ時間前だよ。いつもギリギリ過ぎるとヒナタ君に言われて時間を少し早めたんだ」


 どうやらいつもよりも遅くなったどころか早かったようだ。やっぱり博士の匙加減だったんだな。時間。


「みんな……翔子達は? 」

「ああ。今はご飯を食べているよ。僕もさっき食べ終わってね。早く研究室に戻りたくて先に済ませたんだよ。翔子君達はあそこの扉の向こうにいるよ。じゃあ、樹君は着替えて待機しておいて。僕はもう行くから」

「ああ。わかった。着替えるよ」



 あの扉の向こうって……一部屋じゃないよな? 翔子達はずっとここにいるんだから、あそこはいろいろないと困るよな。まあ、何の部屋かわからないし、いきなり入ってもなあ。とりあえず言われた通りに着替えるか。



 いつもの小部屋に入る。てっきり向こうもこちらの部屋ぐらいか少し大きい程度だと思ったけど。二階がなくて、上がないならあそこはキッチンとかいろいろあるわけだよな。

 着替えてまた武器やら何やら装着して行く。お、メガネも置いてある。昨日外し忘れて翔子に取ってもらったまんまだった。



 部屋を出ると三人ももうあの扉から出てきていた。三人も着替えてるんだよな。当然。奥の部屋があんな感じだった。ここからみるよりもずっと広かったんだし。翔子達は寝泊まりを続けてるんだから、それなりの部屋数が必要だよな。


「どうした? 樹?」


 目ざとくレイナが聞いてくる。


「あ、ああ。そこの部屋で暮してるんだよな?」


 と、俺はその扉を指差して聞く。


「え? 部屋?」

「ああ、部屋ねえ。そう見えるよね。樹の着替えてる部屋と博士の部屋しか見てないと」

「ああ、部屋ね」


 なんか部屋に反応されてるな。


「部屋っていうよりあそこは玄関かなあ」

「玄関?」

「キッチンもリビングもそれぞれの部屋もシャワー室もあるから」

「そこから家みたいな感じかな」


 家……まあ、そうだよな。あの小部屋は完全に俺の着替え部屋になってるし、奥の博士の部屋は生活感がまるでないし、この部屋は食卓があるだけだが、食事には使われてないみたいだしな。


「ふーん」


 本当に翔子達はここだけで生活しているんだ。生活感のまるでなかったこの場所で生活しているなんて想像できなかったのに。


「樹、何、気になってんのよ?」

「いや、なんとなく……」


「え?」

「へ?」

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