第27話 背中
「樹! 起きて! もう帰れるよ! 」
帰れる……! もう三時間も寝てたのか! それでも重い体をあげる。
そこには翔子がいた。レイナはまた博士の助手だろうか。
「もうそんなに経ったのか? 」
「うん。今日の襲撃は終わりだよ。お疲れ様! 」
「じゃあ、着替えてくるな」
「うん」
立ち上がる時に背中の傷が引っ張られる感覚があった。まだ背中の傷は回復中かな。
部屋に入り刀と銃と探知機と……と外していき、無事だったスーツを脱ぐ。やはりスーツには血はついてなかった。多分今も回復中なのに血は出ないんだな。便利なような微妙なような。
制服に着替えて外に出る。
「樹! メガネ忘れてるよ」
と同じく伊達メガネをしている翔子にメガネを外される。普段かけてないので忘れていた。それよりも……
「なあ、あの、変な風に取るなよ」
「え? うん」
「背中違和感ない?」
とふりかえって背中を翔子に見えるようにする。制服はブラウスだ。生地が薄手なので傷が見えるんじゃないかと思ったからだ。
「あー、少しあるかも……」
「背中の傷見てもらえる? 」
自分では見れない。そして、見てもらうとなると脱ぐことになる。別に見せたいわけじゃない! からな。
「あー。うん」
翔子の返答を聞いて、制服のボタンを外してブラウスを脱ぐ。
「どう? 」
背中を完全に翔子に向けている。なんか恥ずかしい。目の前で脱ぐってのが恥ずかしい。
「あー、もう少しここにいた方がいいかも。まだ回復しきれてないね」
「やっぱり? 」
慌ててブラウスをはおってボタンをとめる。女じゃないのに何を恥ずかしがってんだよ俺は。
いつもクセでソファーに座る。翔子もこちらに来るとすぐそこの椅子に腰掛けた。この部屋には大きなテーブルがあって椅子が6脚置いてある。まるで貴族の食卓みたいに馬鹿でかい食卓だ。このソファーは少し雰囲気が違ってる。はじめはここにはなかったし、突然持ってきたて置かれたって感じだ。
「なあ、このソファーって博士の家にあった物? 」
「あー、それね。ヒナタが樹が床で寝るから、外に買いに行ったのよ。で、運んでもらったの」
「それで、ヒナタなんか言いたそうにしてたのか。ソファーの話だったのか」
「ヒナタ心配してたのよ。あ! そうだ。私の怪我は樹とは関係ないからね。私そんなにドジじゃないから」
ヒナタって探知機のメガネもそうだけど、俺のこといろいろ見て気を使ってくれてるんだな。態度はあんなだけど。翔子も話しを聞いて気にしていたんだな。
「わかったって」
「でも運んでもらったってどっちの世界から? 」
玄関と上への階段がある扉を見つめる俺……上だろうか、それとも……。
「この世界の扉はもうないの」
「え? 」
「みんなが去ってから樹の世界とつないだ後に博士が出入口を封鎖したの。敵に見つかると困るからって。ここの上には幻覚の家が建ってるんだけど、それまではそこから出入りは出来たんだけどね」
「じゃあ、翔子は出れないのか? 外に」
ヒナタも博士もあちらにはもういない。出入りはある意味自由だ。だけど、翔子はいる。
「うん。私だけじゃなくてレイナもね」
「そんな……」
「出るって言っても博士は外に元々出たがらないし、ヒナタが買い出し程度に行くだけだよ。ソファーもね」
買い出し程度にあちらの世界で死んでるから出かけられるヒナタもヒナタだが、ずっとここにいて戦闘時に世界中どこにでも行く彼女たち……そして彼女たちに奴らをまかせて普通の生活をする世界中の人たち。ヒーローの世界を地で行くのはこんなにも惨いことなんだな。
沸々とこの世界で人任せに生きてる人たちに怒りが沸いてくる。
「樹。怒らない。仕方ないよ。あいつらは普通じゃかなわないんだから。博士がいなかったら私だってかなわない。あちら側に居たと思うよ」
「………ああ。そうだな」
俺もそうだろう。人のことなんて言えない。不死身だから博士の科学力があるからやってるんだ。それに最初は強引に巻き込まれたんだし。
「樹。背中を見せて。そろそろじゃない? 」
「ああ」
と、脱ごうとすると
「あー。あのそのままでいいんじゃない? 誰かの前で脱がないでしょ? 」
「あ、そうだな」
と翔子に立ち上がって背中を向ける。
「どうだ?」
「うん。気にしなかったら普通だと思うよ。くれぐれも脱がないようにね」
「脱がないよ! 」
さっき翔子の前では脱いだんだけどな。
「じゃあ、行くな」
「うん。またね」
翔子は出てはいけないから最初の扉の前で別れる。念の為に。
そして、あちら側の世界の扉を開ける。
そこには夕方の街並みがある。こちらもあちらも同じだろうな。結局戦ってるのは翔子達だけなんだから。あとは俺にかかってるのか……少しでも仲間が入らないと翔子達はあのプールに入っては出てを繰り返すことになる。今もヒナタが回復中だった。敵は増えている。これ以上ひどくなる前に俺がなんとか『樹』にならないと。
家に帰りまた筋トレを続ける。意味なんてなくても何もしないで普通なんて続けられない。早く『樹』になるためにも。
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